ジェリー・ガルシアはダウンロード違法化を見て笑うかな?〜『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』

 デイヴィッド・ミーアマン・スコット、ブライアン・ハリガン『グレイトフル・デッドマーケティングを学ぶ』(日経BP社、2011)を読んだ。

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ
デイヴィッド・ミーアマン・スコット ブライアン・ハリガン
日経BP
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 全体的にグレイトフル・デッドの収益に関するデータの提示が少なくてあまり面白くなかった。グレイトフル・デッドアメリカで最も根強いファン層を持つバンドのひとつだというのは明らかだし、あととにかくライヴが魅力で、ライヴの録音もOKだしファンの二次利用も完全OKだし…という、ふつうの音楽産業の常識とは逆を行く革新的なやり方で経済的にも成功したというのは現代の文化産業にもいろいろな示唆を与えてくれるものだろうとは思うのだが、この本はなんかもう「グレイトフル・デッドが成功してることはみんなおわかりでしょ!」みたいな前提でもともとそういうことに馴染みがある人向けに書かれていて、いつからいつまでにどれくらい成功したのかとかいう具体的な業績の分析があまりない。グレイトフル・デッドがどういう分野でどれくらい儲けて、今はどの程度の収益があって…というような話を数字(できればわかりやすい図表類)を使ってもっと出してもらわないと、「○○すれば成功しますよ〜」っていうだけで、どれくらいのコストでどれくらいリターンがあるのかよくわからないし、「グレイトフル・デッド最高だぜ!」的なファンの繰り言っぽく聞こえる(まあグレイトフル・デッドのファンとかは具体的にバンドがいっぱい儲けたとかいう話はあまり聞きたくないのかもしれない、とも思ったが)。例えばグレイトフル・デッドのニューズレター発行やファン名簿の管理にはどれくらい労力がかかってるのかとか、私はそういう話を知りたかった。ビジネス本でもこの間読んだシェリル・サンドバーグLean Inはやたらデータ主義で明快だったのだが、この本はあまりそういう感じじゃない。

 ただ、この本は全体的にグレイトフル・デッドへの愛に溢れているので、ビジネス書ときいて連想するあのイヤな自己啓発感はあまりないし(音楽オタクのウザさもたいがいなもんだろうが、自己啓発のほうが明らかに不愉快なウザさがあるもんね)、ところどころで紹介されているエピソードなんかには面白いものもある。また、この本の刊行を支援してくれたというロサンゼルス大学サンタクルーズ校のグレイトフル・デッド・アーカイヴはポピュラーカルチャーの一断面を保存するということですばらしい試みだと思うし是非行ってみたい。

 しかしながら、現代の文化ビジネス(とくに音楽ビジネス)がグレイトフル・デッドと逆方向のビジネスモデル(ダウンロード違法化なんかで客をギチギチに縛る)でカネを失っているのを見たら、ジェリー・ガルシアは笑うのかな?