魅惑の全体主義ふたたび〜『ファイアbyルブタン』

 文化村で『ファイアbyルブタン』を見てきた。靴デザイナーのクリスチャン・ルブタンが演出した、パリのクレイジーホースのショーを撮ったドキュメンタリー。

 以前、クレイジーホースがロンドンに来た時に見たことがあるのだが、一言で言うと「魅惑の全体主義」っていう感じで、そっくりな見た目のショーガールが一糸乱れぬ動きで踊り、そこに照明がいろんなものを写して踊る女性の裸体をまるでスクリーンみたいに見せる、という構成はちょっと恐ろしいくらいなんて素敵に全体主義である。現代のバーレスクというのはダンサーが演出から衣装デザインまで全部兼ねるというDIYの美学が根強くあることもあり、たいていはひとりのショーガール(あるいはボーイレスクダンサー)vs世界みたいな感じで強烈に踊り手の個性が出るものなのだが、クレイジーホースのショーガールは皆踊りの技術はすごいし美人でもあるけど、完全に演出に支配されていてまるでマシンのようだ。これは映画の中でインタビューを受けているルブタンも言っており、「最初はダンサーが皆似ていてびっくりしたけど、よく知りあうようになると皆個性があり…」というような話をしていた。この映画はダンスの合間に各ショーガールのちょっとしたインタビューを入れたり(なんてったってクレイジーホースで踊るような一流ショーガールだからダンスや音楽についてはけっこう踏み込んだコメントをする)、また踊りの後に息切れするショーガールの表情をクロースアップでとらえたりして、ステージでは一糸乱れぬ軍団のように見えるショーガールもひとりひとりは生身の個性ある女性だ、ということを暗示しているのだが、それとショーのギャップがすごい。ちなみにショーガールたちが機械っぽいというのはたぶん肉体的特質のせいもある…というのも、クレイジーホースで群舞みたいなのをするダンサーは皆アクロバティックな激しい踊りで鍛えているからあまりグラマーなタイプじゃなく、かなり筋骨隆々でしかも贅肉が全然ないので、よく見ていると脚やらお腹やらの筋肉の動きがよく見えてまるでマシンが稼動しているみたいなのである。

 ルブタンのショーのほうは、デヴィッド・リンチの音楽を使ったり、いろいろ工夫があって非常に水準が高いものだと思ったのだが、まあやっぱり私はショーガールvs世界みたいなバーレスクのほうが好きである。しかしルブタンのショーで使われる靴は、ルブタン本人が「歩くためではなく踊るための靴」と明言しているだけあって、歩行については全く実用的でなさそうなものが多いのだが、とくに途中で出てきたドリシューズみたいなやつ(バレエシューズにヒールがついたもの)なんかはこれで歩けるとは思えないようなものだった。そんなんで踊れるショーガールの技術はすごい。