興味深いが、物足りないところも〜『n次創作観光 アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性』

 岡本健『n次創作観光 アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性』(NPO法人北海道冒険芸術出版、2013)を読んだ。

n次創作観光 アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性
岡本 健
NPO法人北海道冒険芸術出版
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 アニメの聖地巡礼を対象とした単著としてはたぶん唯一日本語で(英語でもかな?)読めるもので、どういう経緯でどういう聖地巡礼が行われるようになったか、多数の事例についてよく調査していてひとつひとつのレポートは面白い。おっちゃんがアニメに出てくるかわいい宇宙生物みたいなぬいぐるみを使って案内を…とか、アニメに出てくる冷やし中華味のカルボナーラを地元の料理人が苦心して開発…とか(想像するとなんか不味そうなんだが…)、作品内に出てきた架空の祭りを実際に地元でやってみる、とか、町おこしのちょっとめんこいおもしろエピソードも満載で、一方で地元民の試行錯誤なんかについても割合記載があるので、前に読んだ『イギリスに学ぶ商店街再生計画―「シャッター通り」を変えるためのヒント』なんかよりはずっと町おこし本として実用性もありそうだ。

 ただ、一般向けでしかもかなり軽めを狙った本だということで、ひとつひとつのセクションが大変短く、「めんこいおもしろエピソード集」以上に発展してないようなセクションもいくぶんかあってちょっと食い足りない印象を受けた。とくに冒頭部分の理論に触れたところはあまり全体とつながってうまく機能しているとは思えず、東浩紀とか動物化とかむしろ使わないほうがいいんじゃないかと…今後研究がどんどん発展していきそうな有望分野だと思うのでそのへんちょっと残念だった。

 あと、これを読んでふと思いついたんだが、今年の表象文化論学会で「コンテンツツーリズムを歴史から見る」みたいなパネル作るのはどうですかね?コンテンツツーリズムって古くはシェイクスピアからあるものだと思うのだが、そのへんの歴史的な広い視野はもっと研究に持ち込まれてもいいと思うのだが…最初は「人工知能ジェンダーの表象」とかでパネル組もうかと思っていのだがこれだと発表者が集まらなそうだし(このテーマだと私は司会だけで発表できない)、取り上げるべき『her/世界でひとつの彼女』の公開が6月末だそうで学会に組み込むのに間に合わなそうなので、コンテンツツーリズムでやったらどうかなぁと思い始めた。私がストラットフォード・アポン・エイヴォンやって、あとはアニメと実写映画の人を探してくれば…