『デジタル人文学―検索から思索へとむかうために』&『デジタル人文学のすすめ』〜前者より後者が断然おすすめ

 楊暁捷編『デジタル人文学のすすめ』(勉誠出版、2013)、を読んだので、少し前に読んだ小野俊太郎『デジタル人文学 検索から思索へとむかうために』(松柏社、2013)と一緒に紹介。

 

デジタル人文学のすすめ

勉誠出版
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デジタル人文学 ―検索から思索へとむかうために
小野 俊太郎
松柏社
売り上げランキング: 635,634

 はっきり言って、『デジタル人文学 —検索から思索へとむかうために』はかなりがっかりした本である。おそらくこのタイトルでこういう内容を期待する人はあまりいないと思うのだが…デジタル人文学じたいの詳しい内容などについてはあまり記述がなく、ほとんどは情報機器を使ったスタディスキル解説とか授業例とかそういうのがほとんどで、少なくともこの内容をこのタイトルで出すのはちょっとおかしい気がしたし、類書でも新書サイズで千野信浩『図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」』とか桂英史『人間交際術―コミュニティ・デザインのための情報学入門』とか、既に私が学部生の頃から読みやすいものがいくつか出ているので、そっちを読んだほうがいいんじゃないかと思う。あとメディアを使った教育授業例だとHenry Jenkins, ed al. ed., Confronting the Challenges of Participatory Culture: Media Education for the 21st Century(The MIT Press, 2009)っていう良い本があってこれ翻訳したらいいと思うんだけど。

 
 一方で『デジタル人文学のすすめ』のほうがタイトルは軽そうだが、最新の研究成果紹介などについて面白い話がたくさんのっており、現在のデータベース運用の状況や問題点、古典のデジタル化の研究などについてまとまったものを読みたいという場合はこちらのほうが断然おすすめである。専門的な内容もあるのだが、図書館や美術館、文学一般の関心がある人ならそこまで読みにくいものではないと思う。とくにこの本を読んで問題だと思ったのは、第一世代の学術データベースを作った人たちがそろそろみんな定年してしまってその後管理する人にノウハウを受け継いでもらうのが大変だしそもそも管理者が見つかるのかという問題がある…ということで、これはかなり深刻な問題ではないかと思った。予算の問題も訓練の問題もあるし、いったいどうしたらいいんだろう…