BL, 'Georgians Revealed: Life, Style and the Making of Modern Britain' 「ジョージ王朝人解明:暮らし、スタイルと近代ブリテンの創造」

 BLで'Georgians Revealed: Life, Style and the Making of Modern Britain' 「ジョージ王朝人解明:暮らし、スタイルと近代ブリテンの創造」を見てきた。

Georgians Revealed: Life, Style and the Making of Modern Britain
Moira Goff John Goldfinch Karen Limper-herz Helen Peden
British Library Board


 これはジョージ一世の即位から300年を記念して1714年から1830年までのブリテン人の暮らしぶりの近代化をさまざまな手稿、印刷本、チラシ、版画類を用いて見せるというものである。アダム・スミスの『諸国民の富』初版みたいなお宝本から演劇チラシみたいなエフェメラまで楽しい史料がごっそり詰まっており、ジェーン・オースティンや演劇史、娯楽の歴史なんかに興味がある人は必見の展覧会だ。

 まず面白いのは、我々がヨーロッパ人の現代的なライフスタイルとして想像するものの大部分はこの頃の生活の変化に起源があるのだ、ということを図像なんかを多数使って理解させてくれるところである。例えばこの頃からミドルクラスが旅行に出かけるということが盛んに行われるようになったのだが、英国人の旅行者はとにかくダサいということでヨーロッパではバカにされていたそうで、そういうものを描いた諷刺画などが展示されている。今ではこういう「世界中で迷惑がられるダサい旅行者」というのはアメリカ人の役どころなのでは…と思って覇権の移り変わりが頭をかすめる一方、英国人が今でもけっこうヨーロッパでは「ヴァカンスになると大陸に来てひたすら酔っ払って吐いてる変な人たち」扱いらしいのを考えるとそんなにこの頃と変わってないのかも、とも思う。

 しかしながら英国人の旅行はダサいだけではない。エドマンド・バークの崇高論を中心に、火山とかけわしい自然なんかを主題とする絵画、小説、学術研究などが流行ったせいで、英国人はかわいらしい美しいものを見る旅だけではなく厳しい自然を楽しむ旅行もするようになった。このあたりは、ゴリゴリの美学理論が一般人の旅行にも影響を与えるという現象が垣間見えて面白い一方、バークの崇高論は実はこの頃はそこまでゴリゴリの美学理論として見なされていたわけではなく、わりとアクセスしやすいものだったのかも…とも思った。英語で読むとわかるのだが、『崇高と美の観念の起原』ってタイトルはマジメそうなのにけっこう中身は冗談キツかったり機知に富んだ内容で、この種の本としては圧倒的に明晰でわかりやすいと思うので、バークは所謂「売れっ子評論家」みたいな感じだったのかもしれない。

 旅行だけではなく芝居その他の見世物やダンスについても充実した展示がある。観客が今からするとけっこうくだらない理由(観劇料金値上げとか)で暴動を起こして芝居小屋をぶっ壊していたという演劇史関係者にはおなじみの話がいろいろなエフェメラつきで紹介されているのだが、まあ今でもロンドンの観客や劇評家は口が悪いと言われてるんだけどこの頃に比べりゃずいぶん落ち着いたもんだと思う。

 ペニー・ドレッドフルとか犯罪小説というと19世紀、とくにヴィクトリアンを想像する人が多いが、既にこの頃から犯罪実録ものとかはとても人気があったそうで、ハンサムな強盗にご婦人方の追っかけがついたりしたらしい。今でも犯罪者に追っかけがつくことは結構あるので、なかなか興味深いと思う。

 と、いうわけで、現代と18世紀〜19世紀初めの連続性を非常によく理解させてくれる展示だった。とてもおすすめである。