野心を刈り取る季節〜シアタートラム『マクベス』

 シアタートラムで野村萬斎演出・主演の『マクベス』を見てきた。


 まず驚いたのは、上演時間が1時間半強だということ。演出にもよるが、『マクベス』をふつうにやると2時間半以上かかると思うので平均的な『マクベス』よりは1時間ばかり短いことになる。大胆にカットしてあるがそれでも話はきちんと通っていて、このあたりは非常に気をつけてカットしたことがうかがえる。時間ばかりではなく役者も少なくたった5人で、それで1時間半で全編やるということで、マクダフ夫人殺害のくだりや、私が好きな(?)「私は童貞です」という台詞のある(??)マルカム王子とマクダフの面会場面などもカットされており、ほぼマクベス夫妻の場面だけに焦点があたっているので、原作にある多層性、多面性は失われていると思うが、構成が緊密になってむしろシェイクスピアというよりはフランスの古典悲劇とか、日本の能とかを思わせるようなスタイルになっていると思う。


 この緊密な構成にあわせてヴィジュアルにも非常に気を遣っており、四季の移り変わりとマクベスの運命の変転を重ね合わせた舞台作りはとても美しい。最初の野心が芽吹いてくるあたりの場面は春で、うららかな中で花びらが控えめに舞ったりするのだが、野心が花開いてマクベスが王になると夏になり、虫の声がきこえてくる。悪事が実って刈り取られる時期、つまりマクベス討伐軍が襲撃してくる場面は実りの時期、秋になって、血のように色づいた紅葉が舞ったりする。ここでバーナムの森が緑ではなく紅葉しているというのは今までに見たことのない演出だと思うのだが、かなり新鮮だった。どういう仕組みで森が動いてくるのかという説明場面をカットして、ひたすら紅葉した森が近づいてくるというマクベス視点の不条理さを、森を描いた布(下にいくほど赤みが増え、木のかたちも大きくなるデザイン)をどんどん広げるという描写で示している。最後にマクベスが死ぬところではこの布がひっくりがえって真っ白な地面の役割を果たし、雪まで降ってきてマクベスの野心の死が象徴的に示される。こういう日本の四季をモチーフにした美術的構成は、もともと『マクベス』に備わっているスコットランドの政治劇としてのローカル色は薄めていると思うのだが、その薄まりを補ってあまりある面白さがある。こういうふうに自然なんかを象徴的に使って表現するほうが、マクベスの野心がよりヴィヴィッドに感じられるんだなぁ…と感心した。


 全体的に様式美を重視している舞台なので、大仰な衣装にいかにも舞台役者らしい大仰な演技の野村萬斎がはまっていた。一方で新しいヨーロッパふうな演出もけっこう取り入れられていたと思う。セットの感じなんかはロンドンのナショナルシアターなんかでもあるような、シンプルな可動式のものをいくつか組み合わせて、それに布で変化を…というようなものだった。さらに光の点滅を使ったコマ落とし効果の演出があるのが注目すべき点で、これはテリー・ギリアムの『ファウストの劫罰』なんかでも使われていたものである。かなり効果をあげていたと思うので、もっと派手に使ってもよかったかもしれない。

 こんな感じで、全体的にとても面白かったのでオススメである。チケットはずいぶん売れちゃってるみたいだが…