わかりやすいのはいいのだが、カットしすぎて意味不明箇所も〜Casual Meets Shakespeare『Macbeth SC』

 ラゾーナ川崎プラザソルでCasual Meets ShakespeareMacbeth SC』を見てきた。演出は松崎史也で、シリアス版である。

 翻案と言ったほうがいいような台本で、原作をかなりカットする一方でわかりやすくするためにいろんな場面を付け加えたり、変更したりしている。本来はマクベスひとりで行い、さらに実際には舞台上で行われないダンカン暗殺が、マクベス夫人とマクベスが一緒にダンカンの寝室に行って凶行を行おうとするという場面に変更されており、こういう変更はなかなかドラマチックだし夫婦の絆やマクベス夫人の胆力が強調できるので良かったのではと思う。他にも説明のために付け加えられた台詞がかなりたくさんある。
 一番の変更は男性同士の会話場面が多いことである。マクベス、マクダフ、バンクォーの友情について序盤でいくつか場面を付け加えて丁寧に描き、この男同士の絆の頂点に君臨するダンカン王の殺害によって人間関係が崩れ、マクダフが新たにマルカム王子やシーワードと連帯することで秩序が回復されるというはっきりした展開が強調されている。こういうふうに男たちの絆を強調すると、マクベス夫人や魔女などの女たちが秩序を壊す邪魔物みたいに見えてしまうという難点はあるのだが、コンセプトとしてはしっかりしているし、見応えはある。

 ただ、カットのしすぎて意味がわからなくなっているところがいくつか見受けられるのは良くない。たとえばバンクォーが独身(このプロダクションでは女であるドナルベイン王女と縁談が持ち上がったりする)という設定なので、バンクォーの子孫がマクベスの王位に対する脅威だという魔女の予言が無効化されており、物凄く強力なはずの魔女の予言の力がなんだかよくわからないものになってしまっている。また、独白をほとんどカットしており、マクベス夫人の「私を女でなくしておくれ」の独白や、剣の幻影を見ながらマクベスが語る「ダガー・スピーチ」などはほぼカットされている。一方でマクベス夫人の死を聞いたマクベスが話す有名な「トゥモロー・スピーチ」は、冒頭をカットしてはいるがちゃんとやっているので、いきなりここでマクベスが内面を吐露しはじめるのでなんかすごく場違いな感じがする。独白の有名な台詞くらいは残しておいて全体で少しずつ内面吐露をやらないと、だいぶ演出効果が下がると思う。
 また、狂言回しを付け加えているのも良くないと思った。場面と場面の間に狂言回しが出てきていろんな台詞を言うのだが、この間アクションが止まっちゃってテンポが狂うし、正直『マクベス』みたいなそこまで難解でもないし、お客が自然に共感もドン引きもできるような話に狂言回しはいらないと思う。そんなら独白をやったほうがいい。
 あと、男性の衣装は男優陣のハンサムさを引き立てる感じで良かったのだが、女性陣の衣装がイマイチなところがあったと思う。全体としては黒を基調とした衣装で、黒いドレスで踊る魔女たちは良かった一方、マクベス夫人とドナルベインの衣装があまりよくない。マクベス夫人の王妃になってからのドレスが、腰の下をバンドで止めてヒップを強調するもので、後ろ姿はいいのだが前から見るとなんかバンドが中途半端でみっともなく見えた。また、原作ではあんまり活躍しないドナルベインがなんとマーシャル・メイド(武勇の乙女)でいろいろ戦ってくれるのは良い変更なのだが、他の男性の武人が片足ごとにデザインの違うズボンを履いているのに、ドナルベインは右足ほぼ剥き出しでヒザにだけ当て布と水色のリボンをつけている。これが他の武人とあまり合っておらず、さらになんかヒザを悪くしているみたいな連想を生むのでちょっとダサいんじゃんと思った。