悪くはないが、構成に不満〜『シャトーブリアンからの手紙』

 イメージフォーラムで『シャトーブリアンからの手紙』を見てきた。フォルカー・シュレンドルフの新作で、第二次世界大戦中にフランスで起こったドイツ将校の暗殺事件の報復として、共産主義者など150人のフランス人が殺害された史実を扱ったものである。「シャトーブリアン」というのは人名ではなく、この映画の主要な舞台となっており、この事件の犠牲者が多数収容されていたショワゼル収容所がある場所の地名である。

 基本的に、関係者が登場するエピソードをいくつか別々に走らせて、最後にそれが一つに収束するという形式をとっている。事件を多角的に描くことを目指しており、犠牲者の中で一番若く、まだ十代の少年であったギィ・モケなどを中心とするショワゼル収容所のエピソードだけではなく、将校暗殺犯である三人の若者、ドイツ政府からの命令に右往左往する役人たち、最後に収容者処刑をやらされることになるドイツの若い兵士なども同じくらいの比重で並行して描かれている。

 このせいで非常に俯瞰的な視点の映画となっており、ドイツのナチス政府の無謀な政策のせいでフランス人だけではなくドイツ人もえらいめにあっていたということがうまく描かれていると思うのだが、一方でそれぞれのエピソードがあっさりしすぎていてとくに立ち上がりのところであまり引き込まれないという問題が発生しているように思った。例えばショワゼル収容所の収容者たちについて、一人一人がいったい何の罪で入ったのかとか、ギィの思想的背景はいったいどういうものなのかとか、そのあたりはかなりすっ飛ばされている(後で回顧みたいにギィの逮捕理由とかが詳しく語られるかと思ったらそういうわけでもなかった)。さらに、役人たちのエピソードではこの映画の原作者のひとりで当時ドイツ軍で仕事をしていた非常に著名な作家のエルンスト・ユンガーが登場するのだが、この書き方だと「有名で原作者だから出てきただけ」みたいな感じで、はっきり言ってあまり話の中できちんと機能しているとは思えない。私もユンガーのことは著名な作家で保守派だということ以外よく知らないのだが、映画を見ているかぎりではここでどういう立場(政治的意見とか背景も含めてだが)何の仕事をしているのかとかすらよくわからなかったので、ほんと「ちょっと出てきてサッシャ・ギトリと飯食いに行くだけ」みたいに見える。ユンガーのストーリーラインをもっと生かすことはできなかったのかな。

 全体的にはいくつのもストーリーラインをきちんと最後に収束させつつ史実をうまく脚色して語ることを目指す、歴史映画としては意欲的な作品ではあったと思うし、ギィをはじめとして役者の演技にも心に迫るものがあったのだが、構成とか編集にはかなり不満が残る作品だった。収容者の着ている服とか細かいところにはすごい気配りを感じたのでそのへんは高く評価したいのだが、全体をもうちょっと見て編集をするべきだったのでは?