アメリカにもまともな食物がある!!〜『シェフ 〜三ツ星フードトラック始めました〜』

 ジョン・ファヴロー監督・主演のお料理映画『シェフ 〜三ツ星フードトラック始めました〜』を見てきた。単純かつちょっとファンタジーな作品だが、後味はとても良く、面白かった。

 主人公はわがままなオーナー、リーヴァ(ダスティン・ホフマン)の指示で作りたいメニューを作らせてもらえず、停滞気味になっているロサンゼルスの一流店のシェフ、カール(ジョン・ファヴロー)。マンネリ化をカリスマフードブロガーのラムジー(オリヴァー・プラット)にボロクソに言われて怒ったカールは、使いなれないツイッターラムジーに汚い言葉で反撃したところ大炎上。結局お店をやめ、仕方なく元妻イネス(ソフィア・ベルガラ)の元夫マーヴィン(ロバート・ダウニー・ジュニア)からボロボロのフードトラックを譲り受けてキューバ風サンドイッチの移動屋台を始めることにする。一番弟子のマーティン(ジョン・レグイザモ)と、疎遠になりがちな息子パーシー(エムジェイ・アンソニー)の助けでロサンゼルスからニューオーリンズやオースティンを通ってロサンゼルスまで屋台の旅をすることにするが、父親と違ってSNSが得意なパーシーがツイッターフェイスブックVineで効果的な宣伝をしてくれたので屋台は大繁盛。カールは息子との関係を修復し、シェフとしても自信を取り戻して…

 とにかく驚きなのはアメリカだというのに出てくる食べ物がちゃんと全部うまそうなことである。私は二度しかアメリカに行ったことがないのだが、食物はたいていあまり期待ができないもので(南部料理とかクラブケーキとかは例外だったが)とくにサンドイッチは悲惨の一言だったし、またまたロンドンに住んでた時も一部のイタリアやフランス系の店を除くとサンドイッチなんか食えたもんじゃなかったのだが、この映画では出てくる料理がとにかく全部すごく美味しそうに撮影されていて、とくにカールの作るキューバ風サンドイッチは見てるだけで腹が減ってくる。サンドイッチというとファストフードの定番という感じだが、この映画に出てくるキューバ風サンドイッチはすごく長い時間をかけて下ごしらえした肉や作り込んだソースを用いたもので、さらにマイアミキューバ料理、ニューオーリンズケイジャン/クレオール料理など、移民の伝統料理を取り込んでいる。一番驚いたのはオースティンのバーベキューステーキみたいなやつで、テキサス州なんて肉焼いただけで大味なものしか出てこないだろ…と思って見てたら、長時間かけていぶした肉を使う手のかかるサンドイッチなどというものが出てきてこれまたうまそうに見える。まあ、一番魅力的だったのはニューオーリンズの料理なのだが、実は月末に仕事でルイジアナ州に行くので、楽しみになってしまった。

 もうひとつ面白いのは、この映画はSNSについての映画でもあるっていうことである。カールのツイッター炎上はまったくネットリテラシーがない中年男の大失敗だが、いろいろ息子のパーシーがカバーしてくれてうまいSNSマーケティングの道が開かれる。SNSによる炎上とマーケティングを描いているっていう点では、実は『FRANK フランク』に似てると思うのだが、同じくクリエイティヴィティとマーケティングについての映画であるにもかかわらず、後味がずいぶん違うのはお国柄に関係あるのか、役者や監督の個性か…ちなみにツイートを映画で見せる時の表現っていうのはいろいろやり方があると思うのだが、『シェフ』ではツイートの拡散をツイッター鳥が飛ぶ絵で表現していたり、SNSの描き方にかなり開放感があると思った。

 と、いうわけで、明るく楽しく美味しそうな映画で全体的には大変楽しめるのだが、最後にもっとモリー(スカーレット・ジョハンソン)の話を回収すべきではと思った。結婚式の場面でモリーとイネスか、あるいは他のスタッフが会話する場面を入れるだけで、最初でモリーとカールの間に芽生えたものの結局花開かなかった好意が回収されると思うので、ちょっとそのあたり工夫が足りないと思う。なお、それに関係するのだがこの映画はベクデル・テストをパスしない。モリーとイネスは重要な役柄だし、他にも何人か名前のある女性キャラはいるのだが、ほとんどの会話はカールとパーシーの父子を中心に回っているため、女性同士が直接会話する場面はほぼ無い。
 

 ちなみに、おじさんがフードトラックやる作品としてはロディ・ドイルの小説『ヴァン』があって、映画化されてるはずなんですが、これ見た人います?小説は面白いんだが、映画は輸入されてないのではと思う。

ヴァン
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ロディ・ドイル
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