『太陽がいっぱい』風味の『フランケンシュタイン』~『メアリー・シェリー』(配信)

 『メアリー・シェリー』を配信で見た。韓国のミュージカルで、小説『フランケンシュタイン』の誕生をかなり脚色して描いたものである。

piakmusical.com

 ディオダティ荘の怪奇談義から『フランケンシュタイン』刊行までがメインで、お話は『メアリーの総て』と同じ時期を扱っている。アプローチもこの映画とわりと似ていて、メアリー(ベ・ダヘ)の次に「吸血鬼」の著者であるポリドリ(リョウク)が重要な人物だ。しかしながらだいぶ映画より起伏があって話としては面白い…というか、ロマン主義の六大詩人であるパーシー・ビッシュ・シェリー(パク・ソンヨン)とバイロン(ジョンフィ)の陰に隠れてしまって『フランケンシュタイン』はパーシーの、「吸血鬼」はバイロンの作品だと思われてしまうこの2人が綺麗に対置されている。

 全体的には耽美的というロマン主義の詩人たちの不健康な生活(遅くまで寝ていて起きてる時は酒浸りみたいな…)と複雑な人間関係に焦点をあてたものである。メアリが『フランケンシュタイン』を書く経緯がメインなのだが、フラッシュバックでメアリとパーシーのなれそめも語られ、出会った頃の楽しい恋と今は問題だらけになってしまった2人の関係のギャップがかなりつらい感じで描かれている。バイロンとポリドリの関係は『太陽がいっぱい』に似た感じになっている。あまりはっきりしたことはわかっていないのだが、ポリドリはバイロンのボーイフレンドだったのではという説もあり、暗示程度だがポリドリはバイロンがそれこそロマンティックな意味で好きなのだろうな…と思わせる描写がある。このメアリやポリドリの葛藤を、2人の文学的な創作意欲に昇華させて手堅くまとめている。

 しかしながらちょっと驚いたのは、セットやヴィジュアルなどはけっこう日本のミュージカルでもありそうな感じなのに、初っ端からキリスト教の神とか創造主/被造物みたいなコンセプトがどんどん出てくるところだ。『フランケンシュタイン』は創造主への反逆の物語なのでここに触れずに通すわけにはいかないというのはよくわかるのだが、たぶん日本だともうちょっと丁寧な説明をつけつつ後のほうで出してくる気がする。これは日本よりもはるかにクリスチャンが多い韓国だから、最初のほうからとくに説明もなくそういうコンセプトを出してきてもお客さんが理解してくれる(むしろそういうものを出してきたほうが面白いと思ってもらえる)ということなんだろうな…と思った。