たしかにこの名前でアイルランド系じゃないのはおかしい〜『モリーズ・ゲーム』

 アーロン・ソーキン監督・脚本『モリーズ・ゲーム』を見てきた。ソーキンは監督をしたのはこれが初めてらしい。実話に基づいた作品である。

 大変な教育パパであるラリー(ケヴィン・コスナー)に育てられ、モーグル選手で学業も優秀なモリー・ブルーム(ジェシカ・チャステイン)は事故でオリンピックを断念することになり、心機一転してロサンゼルスに引っ越す。法律の道を進む予定だったが、ふとしたきっかけで高額な賭け金でプレーするポーカーゲームの開催を手伝うことになる。胴元としての自分の手腕に気付いたモリーは、ハリウッドの有名スターであるプレイヤーX(マイケル・セラ)を引き抜いて自らゲームを主催するようになるが…

 とにかくアーロン・ソーキン的な映画で、めちゃくちゃ台詞が多く、とくに中心にいるカリスマ的な人物(この場合はモリー)が早口でよくしゃべる。ソーキンについては、ちょっと前にアカデミー賞を受賞した女優が男優に比べて軽い役しかやっていないとけなす性差別的なメールが漏洩して問題になっていたし、本人の作品も性差別的だと言われることが多いのだが、どうもこの映画では自らハリウッドの役柄の不均衡を正すつもりになったのか、ハリウッドにおける性差別批判の代表者で、かつ演技力については文句のつけようがないジェシカ・チャステインを起用し、かなり複雑で厚みのあるヒロインを作っている。助手のB(この映画では、本人以外は実名があまりあげられておらず、だいたい仮名が使われているので「名前」が無い人物が多い)との会話でベクデル・テストもパスするし、父親との関係に問題を抱え、家族の影響から逃れて自分の才能を生かすにはどうしたらよいか、迷いながらポーカー事業に手を染めてしまうモリーの心境がよくわかる作品になっている。モリーは結局失敗して逮捕されるが、非常に人間らしく奥行きのあるキャラクターだ。そして『女神の見えざる手』などで既にわかっているようにチャステインはこういう役が非常に得意なので、犯罪に手を染め、大失敗もするが人間味のある女性としてのモリーを見事に演じている。いろいろダメなところもあるが魅力があるヒロインを丁寧に描いているという点では『アイ・トーニャ』のハイソ版といえるかもしれない。

 脇を固める弁護士役のイドリス・エルバや、最近結局は女性のサポートにまわることになるちょっと偉そうなおじさまの役が増えてきてるケヴィン・コスナー、のんきな顔で実は怖いプレイヤーXを演じるエリック・セラなど、脇役も充実している。個人的に、酔っぱらいでモリーのことをアイルランド系だと思い込んでいるクリス・オダウドは実にかわいそうな役であった。たしかにモリー・ブルーム(ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』に出てくる主要人物と同名)っていう名前ならみんなアイルランド系だと思うに決まってる!まあ、モリーの夫のブルームはユダヤ系だし、モリーなんてありふれた名前なので、よく考えればこの映画のヒロインのモリーユダヤ系であってアイルランド系じゃないのは別におかしくはないのだが、それにしたって反則だ。