やさしく、おかしいロゼギル〜NTライヴ『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』

 デヴィッド・ルヴォー演出の『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』をNTライヴで見てきた。

 ダニエル・ラドクリフがボケ役のローゼンクランツ、ジョシュア・マグワイアがツッコミ役のギルデンスターンである。全体的に非常にコミカルな演出になっており、今まで見たロゼギルの中では一番笑った。全体的にスラップスティックな味付けなのだが、一方で主演の2人がかなり観客の同情を引くような、心の優しいかわいらしい若者になっている。大スターで元ハリー・ポッターであるダニエル・ラドクリフがローゼンクランツだというのが大きいのだろうが、着てるものから立ち居振る舞いまで、ローゼンクランツとギルデンスターンにかなり個性がある。私は今まで三回この芝居を見ており、毎回どっちの役者がローゼンクランツでどっちの役者がギルデンスターンだったか、家に帰ると思い出せなくなってチラシで確認しなきゃならなかったのだが、このプロダクションは初めてどっちがローゼンクランツでどっちがギルデンスターンだったか家に帰るまでちゃんと覚えていられた。

 とくに面白かったのは、ローゼンクランツがギルデンスターンに対してどっちの手にコインを握っているかあてるゲームをさせるところだ。結局、ローゼンクランツが両手にコインを握っていたことがわかってギルデンスターンがそれじゃあてっこゲームにならないじゃないかと言うのだが、ローゼンクランツがここでいかにも真剣かつしょげた表情で「だってキミを喜ばせたかったから」と言う。NTライヴの映像ではここで観客が「おうー」と同情の声をあげる音が入っていた。今まで見たロゼギルで、ここがこういうボケキャラローゼンクランツの相方に対する優しい気持ちをしんみりと強調するような演出になっていたものはあまりなかったように思う。このプロダクションの2人はかなり強い友情で結ばれて互いを思い合っているようだ。そんな2人が死に向かい、引き裂かれていく予感が悲しい。

 また、デイヴィッド・へイグ演じる座長がたいへんエネルギッシュで面白おかしくて良かった。いかにも死に慣れた(!?)雰囲気の老獪なベテラン役者で、出てくると急に場面が騒がしく活気ある雰囲気になる。若者2人が死の予感で苦しんでいるのに、このおっさんがとにかく生き生きしているという対比が非常に良かったと思う。