プロットにいろいろ穴が〜『とりあえず、お父さん』

 銀河劇場で、アラン・エイクボーン作『とりあえず、お父さん』を見てきた。1965年の芝居である。

 登場人物は四人。恋人のジニー(本仮屋ユイカ)のことを疑っているグレッグ(藤原竜也)は、実家に帰ると言って出かけたジニーが置いていった住所に突撃。そこにはシーラ(浅野ゆう子)とフィリップ(柄本明)の夫婦がおり、グレッグはこのふたりをジニーの両親と思って話しかけるが…

 古典的なアイデンティティ取り違えコメディで中盤は笑うところがたくさんあるのだが、ちょっとプロットに穴がありすぎると思った。まず、グレッグは最初の場面ではジニーが置いていった住所が実家のものかどうかを疑っているのに、なぜか次の場面では行き先が実家だと信じ込んでいて、ここはちょっとおかしい。さらに、いくらなんでもジニーが最後までシーラとフィリップ夫妻が両親だということで押し通しているのは強引すぎるだろう(実際に結婚してしまえば絶対にバレる)。それから、これは台本の穴というよりは演出の問題かもしれないのだが、シーラがフィリップに調子をあわせて母親のフリをしてあげるあたりの心理的な展開がよくわからず、シーラが今までと打って変わってやたら「良妻」になったみたいに見えるのであまり説得力が無い。またまた全体的に、最初に理屈にあわない行動をとり、最後まで何も知らないのがグレッグという展開になるので、グレッグがすごくバカな人に見える。

 あと、これは細かいことなのだが、グレッグがジニーの部屋で見つける住所が「バッキンガムシャ、ロウワー・ペンドン1、柳の木が目印」で、グレッグが「その住所で見つかるとはかなり大きい家だね」と言うのだが、たしかにこの住所はUKの住所としてはかなり短いので、私の感覚ではたしかにこの住所だとド田舎の一軒家か貴族のカントリーハウスみたいなデカい家である(ただ、これは原文だとどうもThe Willows, Lower Pendon, Buckinghamshireらしいのだが、それでもけっこうデカくてまわりに家がないような場所に聞こえる)。ところが行ってみると駅から5分のふつうの民家で(ここのセットはかなり作り込んだ庭でとても綺麗だ)、ご近所さんもいるらしい。あと、芝居の中でスクリーンにうつる駅名がBuckinghamshireなのも「北海道駅」みたいに感じてちょっと謎であった。