研究に裏打ちされた正攻法の演出〜『まちがいの喜劇』

 Kawai Project、河合祥一郎演出『まちがいの喜劇』を見てきた。演出家が研究者(というか私の指導教員)で、丁寧な研究に裏打ちされた演出である。お話はかなり単純なもので、運命のいたずらで引き離された双子のアンティフォラス兄弟とその従者で同じく双子であるドローミオ兄弟が主人公である。片方のアンティフォラスとドローミオの主従がたまたまもう片方の主従が住むエフェソスの町にやってきたせいで人違いが起き、大騒動が発生する。最後は生き別れた兄弟に両親までが再会して終わりである。『まちがいの喜劇』はスラップスティックコメディなので視覚に頼った奇抜な演出をすることが多いのだが、この演出はそういうのに頼らず、だいぶ正攻法である。

 セットがかなり凝っており、回転する壁(大がかりな装置で回転させるのではなく、役者が手で持って回転させる)を使ってエフェソスのアンティフォラス家の門の前での押し問答をやるところなどは動きがあって面白かった。最後の修道院のセットも、大きな扉を開くとステンドグラスを模した内装が現れるというもので綺麗だ。衣装も時計などをモチーフにした作り込んだもので、時間のズレが重要な要素である芝居の筋に関わったものになっている。ヴィオラ・ダ・ガンバの生演奏が要所要所を盛り上げてくれる。

 郄橋洋介がアンティフォラス兄弟を一人二役で演じているのだが、この兄弟はかなり性格が違い、同一人物が演じているとは思えないくらい個性的だ。エフェソスのアンティフォラスはかなり不機嫌そうで荒っぽく、ダメ夫に見える一方、シラクサのアンティフォラスはいつも不安そうで使用人のドローミオに非常に頼っている。一方でドローミオ兄弟は梶原航と寺内淳志が2人で演じているのだが、こちらは仕草までソックリである。要所要所で笑いもとっているし、メリハリのある飽きない演出と演技だ。

 とはいえ、私はもともと『まちがいの喜劇』の戯曲じたいがあまり好きでは無く、台本の完成度が低いと思っているので、面白さでは前にKawai Projectでやった『から騒ぎ』には及ばないと思う。ドタバタ喜劇で粗野な展開をするわりに最後、宗教的なしめ方になるところにちょっと強引さを感じる。