学科会議も学生指導も全部サボる〜『インフェルノ』(ネタバレあり)

 ロン・ハワード監督『インフェルノ』を見た。ロバート・ラングドン・シリーズの第三作である。

 話としては、過去数日前の記憶を喪失した状態になってフィレンツェで目覚めたロバート・ラングドン教授(トム・ハンクス)が、ケガやら記憶喪失やらいつもの頭脳が働かない状態で陰謀と戦うというものである。

 映画としては大変イマイチである。『ダ・ヴィンチ・コード』や『天使と悪魔』は、まあいろいろツッコミどころがあるにせよ娯楽ものとして見せ場があったと思うのだが、『インフェルノ』はやたら複雑だがなんかバカっぽい展開で見せ場もパッとしないものが多く、全体に説得力が無い。さらにキリスト教への愛憎を織り交ぜて雰囲気に統一感を出していた全二作に比べると、今作はダンテの『神曲』の地獄編がやたら派手に登場したかと思うとすぐ消えてしまって肩すかしである(そしてあのダンテの専門家はいったいどうなった…)。悪役の設定は『キングスマン』に似てるのだが、ツッコミどころいっぱいの動機やプランを役者のアンサンブルでうまく誤魔化していた『キングスマン』に比べると、ずいぶん悪のチームにカリスマ性が足りない。

 トム・ハンクスは前回よりも老けてかつ病気やらケガやらいろんなトラブルでフラフラなラングドンなのだが、ケガ(ケガというべきか病気というべきか微妙だが)の後遺症で「コーヒー」も思い出せないくらいの記憶喪失状態なのに、中世の黒死病ヴァザーリの話は普通に思い出せるあたりは学者っぽい。ただ、相変わらず学科会議や学生指導をサボりまくってたし(途中でGメールの連絡を無視してた)、象徴を研究してるのにイタリア語は相変わらずしゃべれないみたいだし(話してる感じだとひょっとしたら読むほうはできるようになったのかも)、そのあたりは全くリアリティの無い学者である。

 なお、この映画はおそらくベクデル・テストはパスしない。女性の登場人物は何人か出てくるのだが、お互いに会話する場面がほとんどなく、複数の女性がいる場面でも必ず他に男性が会話に加わっていた。