ダイジェスト版みたいだが、そんなにひどい映画じゃない~『移動都市/モータル・エンジン』

 ピーター・ジャクソン監督の新作『移動都市/モータル・エンジン』を見てきた。

www.youtube.com

 移動都市ロンドンで博物館につとめている歴史家の若者トム (ロバート・シーハン)は顔に傷のある少女ヘスター(ヘラ・ヒルマー)と出会う。ヘスターは歴史家ギルドのトップであるヴァレンタイン(ヒューゴー・ウィーヴィング)を暗殺しようとし、トムはそれを止めるが、ヴァレンタインはトムを都市の外に突き落としてしまう。トムはヘスターと一緒に地面をさまようことになる。

 

 これ、フィリップ・リーヴの『移動都市』が原作なのだが、原作ではかなりちゃんと書いてあるところをだいぶはしょっており、本来であれば(PJお得意の)3部作の映画とか、あるいは1シーズンのテレビドラマにするような長い話を超特急でやっているので、全体的にダイジェストみたいである。原作では移動都市ロンドンの階級システムなどがもっとよくわかるように描写されているし、ヴァレンタインの娘キャサリン(レイラ・ジョージ)とベヴィス(ローナン・ラフテリー)がロンドン市内で行う工作なども丁寧に書き込まれており、さらに反乱のリーダー格であるアンナ・ファン(ジヘ)はもっとカッコいいのだが、そのあたりがずいぶんすっとばされているので物足りないし、原作を読んでいない人にはわかりづらいだろうと思う(なお、ベクデル・テストはアンナとヘスターの会話でパスする)。

 

 しかしながら、ピーター・ジャクソンが作っているからなのか何なのか、SF映画としてはまあふつうにまとも…というか、前評判で『ジュピター』くらいはひどいと聞いていたのでどんだけメチャクチャなのかと期待して行ったのだが、全然あんなにひどくはない。『移動都市/モータル・エンジン』は『ジュピター』とか『ヴァレリアン』とか『ア・リンクル・イン・タイム』とかに比べりゃ全然ちゃんとしたSF映画である。ものすごくハチャメチャなものを期待して見に行ったので、ちょっと肩すかしをくらった。役が薄っぺらいわりに役者陣は頑張っており、主演のひとりであるロバート・シーハン(私がここ数年応援している若手)は可愛いし、スチームパンクなヴィジュアルとかもそんなに悪くはない。

 

 ちなみにこのタイトルの"Mortal Engines"(もともとは「死をもたらす大砲」くらいな意味)というのは、『オセロー』第3幕第3場からの引用である。わかりにくいところにシェイクスピアが隠れている。