おとなの女の芸と見栄〜シアターグリーン、モーム『劇場』舞台版(ネタバレあり)

 シアターグリーンサマセット・モーム『劇場』の舞台版『劇場-汝の名は女優-』を見てきた。原作は小説で、サボー・イシュトヴァン監督が『華麗なる恋の舞台で』として映画化している作品である。

 1930年代のロンドン。大女優ジュリアは円熟した芸で順風満帆のキャリアを歩んでいたが、多忙で疲れている上、夫で興行主であるマイケルとの関係は冷え、かわいがっている息子のロジャーは寄宿学校に入っていて頻繁に会えない。親友であるパトロンのドリーや付き人のエヴィのとりなしも功を奏さない。そこへ現れた若い男トムとジュリアは恋仲になるが、トムは実は恋人のエイヴィスをジュリアの芝居に出したいという下心を持ってジュリアに近づいただけだった。さらにエイヴィスはマイケルまで誘惑する。全てを知ったジュリアは自分の芸を使って復讐をたくらむ。

 大人の女の芸へのこだわり、見栄、プライド、情愛などを丁寧に描いた作品で、最後の復讐場面はスカっとする。エイヴィスが若い女の魅力を使って目的を達しようとするところはちょっとステレオタイプの気もあるかもしれないが、一方で男のトムも色気を使って目的を達しようとするのでそんなに気にならない。さらにドリーやエヴィといった年配の女たちとジュリアの信頼関係がけっこうきちんと描かれているのであまり女性嫌悪の色合いは無く、どちらかというと若者が軽薄な考えで大人の女性の知恵や色気をバカにしていはいけないよーというような話になっていると思う。若者の中では唯一、善良で人好きのする真面目な(真面目すぎるところが欠点として描かれているが)青年であるロジャーもトムに裏切られてひどい目にあうので、単に若者がバカにされてばかりというわけでもないと思う。

 台本としては、第一幕はちょっと言葉遣いにやや大仰なところがあるように思えたし、また役者が少しセリフをかみ気味だったのは残念だが(マイケルがしゃしゅしょの発音でカミカミだったのだが、初日でちょっとセリフがこなれていなかったのかも)、第二幕は最後に向かってどんどん盛り上げていくような様子になっていてとてもよかったと思う。全てのアクションが劇場の舞台(上演中だったり、リハーサル中だったり、イベントでパーティを開いたりする)という場で行われるという設定で、これはなかなか気が利いている。主演の旺なつきがジュリアを堂々と演じ、中年女性の美しさと自信をたっぷり見せてくれるのがよかった。

 あと、この芝居を見て思ったのだが、どうもドリーはレズビアンでジュリアに恋しており、ロジャーはゲイでトムに惚れていたように見える。ドリーは芝居好きの堂々とした上流夫人で、子どももおらず寡婦になって寂しい思いをしていたところで劇場のパトロンになったらしいのだが、とにかくジュリアにぞっこんで、親友がトムを愛人にしたことについては嫉妬しており、ジュリアの息子であるロジャーのことは名付け親として自分の子どもみたいに溺愛していて、あまりにもこうした愛情表現が豊かなので、ちょっとジュリアに叶わぬ思いを捧げているみたいに見えるところもある。ロジャーは途中で女の子と初体験をしたがあまり感動しなかったとジュリアに打ち明けており、さらにトムに裏切られたことを憤慨する場面もあるので、ゲイみたいに見える。映画版ではチャールズがゲイとして描かれていたのだが、モームはゲイだし、もとの小説にもそういう要素あったのかな…(昔読んだのだが失念した)。

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