細かい美術や照明が良かった〜新国立劇場『ラ・ボエーム』

 新国立劇場で『ラ・ボエーム』を見てきた。言わずと知れたプッチーニの有名オペラで、栗國淳が演出である。

 オーソドックスだが美術や照明などにとても気を遣った演出だった。基本的にどの場面でも最初はスクリーンに風景などを投影するところから始まり、これで雰囲気を作った後にスクリーンが上がって登場人物が現れるという始まり方になっている。第一幕と第四幕は真ん中に壁のある二部屋の古ぼけたフラットで、左右の両端にドアがついていてそこから出入りできるようになっている。右側の部屋にストーブがあり、ここで原稿を燃やすところから始まる。最後にミミが死ぬのもこの右側の部屋である。第二幕はパリの街路で、たくさんの人を出して動きをつけ、最後は皆でムゼッタをかついで軍隊の行進とともに舞台奥に消えていくという奥行きを使った演出になっている。
 第三幕はまず舞台奥に居酒屋が見え、その後でセッティング変更があって居酒屋が左手脇に近づく。ここでは居酒屋の位置を変えることでミミのためらいや心理的な距離などをうまく表していると思った。この場面は寒々しい雪景色を表す照明や美術の工夫がとても繊細で、雪が散らばる地面の様子なんかはかなりリアルだ。最後に中央に置かれた街灯の下で歌うミミとロドルフォに照明があたり、そこにひらひら雪が降ってくるあたりはタイミングのコントロールが絶妙で、愛し合いつつ別れる2人の心境をうまく盛り上げていると思った。
 第四幕は登場人物の入退場なんかにかなり工夫がある。ロドルフォとミミを2人にしておくため、周りの登場人物たちがいったん全員外に出るのだが、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないかと思ってドアから中をのぞいたらまだ2人が話していたのでちょっと遠慮する…とか、直接歌わない登場人物たちの動き方にも注意が払われている。また、ミミの死の場面ではいきなり登場人物たちが歌わずに叫び始めるのだが、これはたいして派手な演出ではないのにかなりショッキングだった。

 と、いうことで、細かい演出に気配りのある良い舞台だったと思う。歌については第一幕はちょっと最初調子があがってないかな…と思うところもあったが、第二幕以降はだんだんよくなったと思う。ただ、第一幕のミミの衣装がかなり良くなかった。ミミはお針子だし、貧しくても着るものに気を使いそうなタイプだと思うのだが、はいているスカートが灰色っぽいロングスカートであんまり似合ってなかった。生地が重いのか型があってないのか、なんかミミが歩くと尻が出っ張って見えるし足下はまとわりついてくるし、非常にもっさりした着こなしであるという印象を受けた。ミミはお花に刺繍とかしてて一応クリエイティヴな女の子なんだし、綺麗なものが好きみたいだからああいう可愛くないスカートは履かないだろう…なお、むしろケツ振って歩くスカートが似合いそうなムゼッタはパワフルにセクシーというよりはエロ可愛いみたいな感じだったと思う。