とにかくつらい~サラ・ケイン、Crave (配信)

 チチェスターフェスティヴァルが有料配信したサラ・ケインの一幕物の芝居Craveを見た。

www.cft.org.uk

 4人の名前のない登場人物(A、B、C、Mという文字だけで示される)が出てきて、お互いのモノローグが会話になったりならなかったり…というような作品である。台本に性別は明示されていないのだが、話している内容からしてCとMが女性、AとBは男性と思われる。他の頭文字が何を示唆しているのかはよくわからないのだが、MはどうもMother(母)っぽい。台詞はわりと短いのだが詩的で、アクションは少なく、どっちかというと詩を朗読しているみたいな芝居である。

 黒い箱みたいなセットに4人の人物が並んで、それぞれランニングマシン…というか動く歩道みたいなものに載るというセットである。照明も音響もかなりよく考えていると思われ、全体的に不穏で暗い感じがする。ランニングマシンはあるものの動きが少なく、ひとりひとりの詩的なモノローグがかぶさる感じで、サミュエル・ベケットの一幕物を思わせる感じである。

 …そういうわけで、ベケットの芝居といえばつらい、つらいといえばベケットの芝居というくらいベケットの一幕物はつらいのだが、これもものすごくつらい。出てくる話は人生の苦痛に満ちた内容だし、またコミュニケーションの困難さみたいなものも感じ取れる芝居である。ケインの他の芝居に比べるとあからさまな暴力とかが少ないのだが、暴力が少なければつらくないというわけではない、というかむしろこっちのほうがずっとつらい芝居なのではという気がした。