女版ベケット~『エアスイミング』

 シャーロット・ジョーンズ作『エアスイミング』を東中野バニラスタジオで見てきた。兎に辰が主催、、池田衣穂演出である。二人芝居で、池田がドーラ/ドルフを、ペルセポネー/ポルフを佐々木明音が演じる。ミス・ベイカーとミス・キットソンという、実際に精神疾患隔離施設に長年閉じ込められていた女性の話をヒントに書かれた芝居である。

 史実によると2人とも婚外子を産んだことで精神疾患隔離施設に閉じ込められたということなのだが、芝居ではペルセポネーは既婚者とのロマンスの末に子供を産んだこと、ドーラは振る舞いが男っぽいことが隔離の理由として強調されている。ドーラは今でいうとどういうアイデンティティの人物なのかは明示されていないのだが(トランス男性なのかもしれないし、レズビアンのブッチなのかもしれないし、今でいうノンバイナリなのかもしれないし、どれでもないがジェンダー規範に従っていない人なのかもしれない)、明らかにクィアな人物である。ペルセポネーは最初、わりとジェンダー規範に従っているロマンティックな女性のように見えるのだが、ドーラと一緒にいるにつれてペルセポネー自身が意外といろんな規範に従えない女性であることが見えてきて、クィア性が明らかになってくるようなところがある。ドルフとポルフはこの2人の幻想の中の分身のような存在らしく、ドーラとペルセポネーの心情などを反映して行動しているようなのだが、いつどういうふうにできた幻想なのかはあんまりはっきりしていない。

 全体的にこの作品は女が主人公のベケットみたいなところがある。ベケットの芝居というのは心身に病を抱えた人とか、動けない人とか、通常のジェンダー規範におさまらない人とかを扱っていて、主役は男性のカップルであることが多い。『エアスイミング』は主役の2人が女性だが、なんとなく不思議でユーモアもある一方つらい感じのする会話といい、ケンカもするがお互いを思いやっている関係といい、ベケットっぽい。

エアスイミング

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