全然面白くなかった〜ティージースタン『パブリック・エネミイ 人民の敵』

 シアタートラムでティージースタン『パブリック・エネミイ 人民の敵』を見てきた。ベルギーのオランダ語劇団で、演目はもちろんイプセンの『人民の敵』なのだが、まあ好みがあるのだろうが私は全く面白く無かった。

 物語は温泉の水質汚染を告発しようとする医師ストックマンが、市長である兄をはじめとする街の人々から圧力をかけられるというものである。19世紀の芝居だが、エコロジー、科学コミュニケーション、ポピュリズムなどを扱っており、今でも通用するテーマがたくさん入っている。戯曲じたいには凄い力がある。

 このプロダクションはいろんな役をとっかえひっかえやるたった4人の役者(男性2人、女性2人)にト書きを読む人ひとりという構成で、前半はランプの傘などちょっとした小道具以外はほとんど何も使わない。後半は一応、机が四つ出てくる。

 ところが私はこの上演がミニマリストすぎて全く面白くなかった。もともと私はあんまりミニマリストな上演が好きでは無いし(かえってきざったらしくなることが多いと思う)、わざと完全にできあがってないみたいなリハーサルっぽい雰囲気にしているところも鼻についた。スマートフォンポピュリズムがもう本番になっている時代に、あんなシンプルで練習みたいな雰囲気の上演じゃ古いだろう…

 さらに凄くイヤだなと思ったのは、シンプルにすることでなんとなく「普遍性」を指向しているわりには、そう見えなかったことである。女性の役者が二人ともスーツ姿でどうも「普遍的なヒト」を男性に近づける方向性があるように思い、女優が2人出ているのにずいぶん男性中心的な芝居に見えてしまった。さらにこれって田舎のイヤな人間関係の話だと思うのだが、一切小道具とかナシでシンプルにするとかえって都会的な感じになってしまい、田舎っぽさがなくなる。結局都会の男性の話みたいに見えた。