ストラトフォード(8)踊って歌って大笑い〜『軍艦ピナフォア』

 レズリー・ウェイド演出、ギルバート・アンド・サリヴァンの『軍艦ピナフォア』を見てきた。

 『軍艦ピナフォア』は、話じたいはメチャクチャな作品である。軍艦ピナフォアの水兵レイフはコーコラン船長の娘ジョゼフィンに恋しているが、身分の違いでなかなか恋を打ち明けられず、さらにジョゼフィンと海軍のトップであるサー・ジョゼフとの縁談が持ち上がってしまう。しかしジョゼフィンもレイフのことが好きだった。しかしながらいろいろあり、最後に物売りのバターカップの告白で、レイフは実は赤ん坊の頃にコーコラン船長と取り違えられていたことがわかる。レイフが船長になり、ただの水兵の娘になったジョゼフィンと結婚し、コーコラン船長はバターカップと結婚。サー・ジョゼフはジョゼフィンではなく自分のいとこと結婚することにする(サー・ジョゼフは常に多数のいとことかおばを連れて自分を褒めてもらっているという設定)。レイフと船長はいったい何歳なんだとか、どう考えても赤ん坊の取り違えに責任があるバターカップと船長が結婚しちゃうのはおかしいだろとか、いろいろツッコミどころが多いのだが、まあこれはバカ話なので…

 全体的に1910年代の雰囲気をよく再現した作品である。最初はポーツマスの白黒写真が舞台の幕に投影されているのだが、見ていくうちに主役のレイフとジョゼフィンの恋路を邪魔する悪役のディック(ブラッド・ルディ)は写真が趣味であることがわかる。ディックは最初、ジョゼフィンなんかをつけ回していろんな写真を撮っており、ちょっと気味悪いストーカー風味なのだが、最後はけっこう改心して大晦日に皆の写真を撮影してあげるという心温まるオチになっている。せっかく写真が上手なのに人をいじめることにばかりその技術を使っていたディックが、皆のために綺麗な写真をとろうと思うようになるというのはなかなか愉快な落とし方だ。

 以前ハロゲイトのギルバート・アンド・サリヴァンフェスティヴァルで見た時はそこまで面白いと思わなかったのだが、今回のプロダクションは以前見たよりもちょっとモダンな感じで、とくにダンスがストリートダンスやディスコみたいな感じでアップデートされており、踊りを見ているだけで楽しかった。船を模した二階建てのセットも綺麗で、右端のはしごを使ってレイフ(マーク・ユーレ)が自殺しようとし、ジョゼフィン(ジェニファー・ライダー=ショー)が慌てて恋を告白するところなんかはセットをうまく使っていたと思う。キャストの歌や踊り、ユーモアのセンスも申し分ない。一度も海に出たことがないのに海軍のトップにのぼりつめた、頼りないのに偉そうでなんかモテるつもりらしいサー・ジョセフは現代でもけっこうどこにでもいるような政治家で(アメリカの大統領とかな)、ギルバート・アンド・サリヴァンの諷刺は時代がかっているようでけっこう今にも通じるよなーと思った。