諷刺は辛辣だが、台本はイマイチか~国際ギルバート・アンド・サリヴァン祭『ユートピア有限会社』(配信)

 国際ギルバート・アンド・サリヴァン祭による『ユートピア有限会社』を配信で見た。ジェフ・クラークの演出である。これはギルバート・アンド・サリヴァンの演目でもほとんど上演されないもので、国際ギルバート・アンド・サリヴァン祭でも上演されるのは2回目だということだ。

 南洋のどこかにあるらしいユートピア国は平和で皆安楽に暮らしていたが、専制君主パラマウント王(ベン・マカティア)は長女であるザラ王女(モニカ・マッギー)をイングランドのガートンカレッジに送り、国のイングランド化をもくろんでいた。帰国したザラ王女はブレーンとして英国から6人の男性を連れて帰ってきており、この人々の助言でユートピア国は有限会社となり、イングランド式にいろいろな改革が行われる。ところが改革がいきすぎてみんな健康で犯罪がなくなったので医者やら弁護士やらは失業し、女性陣はイングランドのレディとして礼儀を重んじすぎてろくに社交もできなくなる。結局、ユートピア国はバランスをとるため、全てがうまくいかなくなるにきまっている議会制度を導入することにする。

 有限会社に関する法律とかイングランドの政治に対する非常に辛辣な諷刺を含んだ話だが、一方で台本はけっこうとっちらかっており、第1幕が長いのに第2幕は急いで畳んでいるみたいな感じで(そのわりにデビュタントボールの場面は長い)、ペース配分があんまりよろしくない。さらにギルバート・アンド・サリヴァンの過去作である『ミカド』とか『軍艦ピナフォア』に言及してネタを使い回しているところもあって斬新さは少なく、たしかにこれは他の作品に比べるとウケが悪いだろうと思った。また、全体的に南洋幻想どっぷりなので現代ではやりにくそうだ。『ミカド』同様、ここに出てくるユートピア国はヴィクトリア朝の英国を諷刺するための人工物だし、英国政府の植民地主義政策に対する皮肉でもあるのだが、ユートピア国の人たちが自分たちを半ば野蛮人だと言ってイングランド化を推し進め、その結果なんだかよくわからないことに…という展開は今の視点からするとだいぶ古臭い。この演出はそのへんを考え、ユートピア国の人たちはあんまり南洋風な衣服は着ていない…のだが、ちょっとトルコ風に見えるところもあり、そのへんは逆に問題かもしれない。笑うところはたくさんあるのだが、やはり他の作品に比べるとイマイチだと思う。