バリトンをカウンターテナーに変えた上演~ギリシャ国立オペラ『ミカド』(配信)

 ギリシャ国立オペラの『ミカド』を配信で見た。2017年の上演を収録したものである。ギリシャ語で歌われ、字幕はギリシャ語だけで英語字幕はつかない。

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 字幕がないのでちょっと全部理解できたかあやしく、わりとよくわからなかったところもあったので自信はない。セットや化粧などについてはちょっとわざとらしいオリエンタリズムがうまくいってないような印象を受けた。後ろに変な漢字がいっぱい書いてある背景があり、屏風などが出てくる一方、メイクはちょっと眉が上がり気味だ。美術は全体的にあまり日本っぽくはなく、中国風である。衣装はけっこうふつうの現代の衣類も多いのだが、ミカドは中国皇帝風だ。たぶん意図的にやってるのではと思うし、台詞で何か諷刺的な工夫があるのかもしれないが、正直、デザインを見ているぶんにはあんまり面白くはない。

 ただし音楽はけっこう面白いところがある。ふつうはバリトンであるはずのプーバーがカウンターテナー(ニコス・スパナティス)で、いつもと全然聞こえ方が違う。このプロダクションではプーバーが大活躍で、歌もうまいし、笑いもとるし、自分で楽器も演奏する。伴奏の楽団はたった6人で、右側で複数の打楽器をひとりで演奏している奏者が大活躍だ。なんと途中で指揮者も歌に参加する。ただ、歌のクオリティはけっこう歌手ごとに差がある感じがした。

 演出についてはこういう音楽にあわせてわりと動きが多く、たくさん踊ったり歩き回ったりするものだ。ナンキ・プーとヤムヤムがいちゃつくところとか、ココとカティシャが一緒になろうと決めて盛り上がるところとかは相当に露骨でかつ笑える。ミカドがけっこう派手に踊り、客いじりで笑わせていた。ミカドは途中でモーツァルト魔笛』の夜の女王のアリアをパロるなど、このあたりの音楽的センスはギルバート・アンド・サリヴァンのパロディ精神をちゃんと引い継いでいる感じだ。