アトミック・レッドヘッド〜『女神の見えざる手』(ネタバレ)

 ジョン・マッデン監督の政治ドラマ『女神の見えざる手』を見た。

 ヒロインであるエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)はワシントンDCの辣腕ロビイストである。自由市場と税金が専門だったが、銃規制反対ロビーを引き受けることを拒んただめ、ライバルのロビー会社に引き抜かれて銃規制推進のためのロビー活動を行うことになる。ありとあらゆる汚い手を使って銃規制法案を通そうとするエリザベスだが…

 とにかくジェシカ・チャステインの演技が素晴らしい。エリザベスはめちゃくちゃ頭が良いがイヤな女で、とにかく仕事に邁進しており、目的達成のためならどんな手でも使う。エリザベスが悪巧みをしたり(悪巧みの内容はあんまり観客にも明かされないのだが)、とうとうとまくし立てたりする様子は武器を使って戦っているのに近いダイナミックさだ。『アトミック・ブロンド』で敵と殴り合ってるシャーリーズ・セロンを見ているのと同じくらいはカッコいい。赤毛なのでアトミック・レッドヘッドとでも言うべきか。

 しかしながらこの映画にはいくつかフェミニスト的なひねりがある(ベクデル・テストは当然パスする)。まずエリザベスは銃規制に対しては賛成していて、女性が銃でエンパワーメントされることなど無いと信じており、銃規制反対派が出してくるプランを「オッサンの世迷い言ね」みたいな感じで一笑に付す。汚い手を使いまくるエリザベスだが、女性と社会の安全を脅かす暴力を広めることには加担したくないらしい。さらにこの映画のオチは、政治の世界で汚い手を使って成功するのが幸せというわけではないんだ…ということをも示しており、仕事ができるエリート女性を称賛するだけで終わりがちなこの手の映画にしてはずいぶんひねった終わり方を用意しているところが面白いと思った。この展開で、ヒロインが自分のキャリアよりも社会の利益と自分の健康を気にして人生の選択をするなんていうのはなかなか珍しいと思う。しかもその選択が全然家庭的でもなんでもなく、それまでのエリザベスの生き方とあまり矛盾が無いものになっているのが良い。この終わり方は所謂「コーポレイト・フェミニズム」的なものにやんわり疑義を呈するものなんじゃないかと思う。

 終盤の展開はちょっとごちゃごちゃして強引な気もするのだが、こういうイヤな性格のヒロインを生き生きと描いていること、さらにイヤな性格とフェミニスト的な考えを調和させていること、仕事の成功だけを礼賛して終わらないところは大変良かった。今年見た中ではかなりひねったフェミニスト映画だと思う。