赤から白への色模様〜『近松心中物語』

 秋元松代作、いのうえひでのり演出、シス・カンパニー近松心中物語』を見てきた。近松門左衛門『冥途の飛脚』など複数の作品を原作として、二組の男女の恋と心中を描いたものである。もともとは1979年初演、蜷川幸雄演出で何度も再演されているそうだが、私は今回初めて見た。

 舞台は大阪である。飛脚である亀屋の養子である真面目な商売人、忠兵衛(堤真一)は、ひょんなことから足を踏み入れた新町の遊郭で遊女、梅川(宮沢りえ)と出会い、一目で運命の恋に落ちる。梅川も忠兵衛に惹かれて相思相愛の仲となるが、梅川は別のお大尽から身請けの申し出を受ける。困った忠兵衛は友人である傘屋の与兵衛(池田成志)から借金し、さらには亀屋で預かった金にも手をつけて梅川を無理矢理見受けする。犯罪者になってしまった二人は逃避行を始め、最後には心中するほかなくなる。与兵衛も店の金を勝手に人に貸してしまったため逃げ出すが、それを慕った妻のお亀(小池栄子)がついてきて、やはり心中をということになる…ものの、お亀だけが死に、与兵衛は生き残ってしまう。生き残った与兵衛のもとに幻影となって現れるお亀だが…

 赤い風車でいっぱいの遊里から、最後は梅川の故郷の雪に埋もれた真っ白な村まで、全体的に色合いにとても気を遣ったプロダクションだ。前半は遊里と大阪の商家の外側と内側を見せるため、セットを頻繁に回転させており、これもなかなかダイナミックだった。視覚的にはいろいろ面白いところがたくさんある。 
 役者陣のほうは、女優が大変適役だった。お亀役の小池栄子は、のんびりしていてあまり頼りがいのない夫をひたすら愛する強くて激しい若妻を可愛らしく、かつ面白おかしく演じており、笑うところはほとんど一人で全部持っていってたと思う。さらに幽霊になってからは生前より色っぽく、意志薄弱な与兵衛をあの世から誘惑するところは魅力がある。梅川を演じる宮沢りえは、これなら誰でも一目惚れしてしまうだろうというような美貌の遊女だ。あまりにキレイなので、途中で「松の位でもない自分を…」というようなことを忠兵衛に言う台詞があるのだが、あの気品で松の位の遊女でないなんて信じられないと思ってしまった。

 ただ、ちょっとあまり良くないと思うところもあった。全体的に音響があまり良くなく、舞台の奥側を向いて台詞を言うと後方座席では部分的に聞こえづらくなることがあった。また、そのわりに音楽の音量が大きすぎて台詞を邪魔したり、うるさく感じられることもあった。あと、全体的にはとても色みに気を遣っているのに、第二部冒頭で梅川が緑の帯をしめて出てくるところだけはあまり色の設計が良くなかったと思う。この場面では梅川は可愛らしい感じのピンクの着物を着ているのだが、これに緑の帯をあわせるとちょっと華美な感じになるし、さらに同じ場面に出ている女性のうち二人が緑系の着物を着ているので、ヒロインと周りの人のコントラストがはっきりせず、ここだけ場面の色調が一本調子でぼんやりしているなと思った。