笑いと天才〜NTライヴ『アマデウス』

 NTライヴ『アマデウス』を見てきた。今授業でこのテクストを読んでいるのだが、上演を見るのは初めてである。ピーター・シェーファー作の有名戯曲で、マイケル・ロングハースト演出である。神に愛された天才モーツァルトに嫉妬し、あの手この手で追い落とそうとする作曲家サリエリを描いた作品だ。

 この作品は台本が再演のたびに台本が改訂されており、このNT版は映画『アマデウス』とも私が授業で使っているテクストとも違う。だいぶすっきりした構成で、サリエリの内面を浮かび上がらせるものになっている。

 とにかくオーケストラを舞台に上げて演奏させているのが見所だ。単純に演奏している人たちが見えて面白いという他にも、モーツァルトがロックスターみたいに自信たっぷりにオーケストラを指揮する一方、サリエリが演奏するところはマーチを弾くくらいであまり目立たないようになっており、サリエリの音楽的な引け目がよくわかる演出になっている。サリエリを演じるルシアン・ムサマティの、笑いと苦痛のメリハリがしっかりした演技が素晴らしく、観客に直接親しく話しかけることを通じて自分と観客は同じく凡庸な人間なのだということをアピールし、共感を呼ぶ。またモーツァルトを演じるアダム・ギレンも良かった。モーツァルトは下品な声で笑う若造なのだが、ギレンのモーツァルトが『フィガロの結婚』について熱く語る場面などは「コイツ、下品だけど本当に天才なんだろうな…」と思わせる雰囲気があり、そのあたりのギャップが大変良かった。