マーロウ大活躍!〜自由劇場『恋におちたシェイクスピア』

 自由劇場劇団四季恋におちたシェイクスピア』を見てきた。言わずと知れた映画版の舞台化である。去年の『シェイクスピア物語〜真実の愛』とは関係ないらしい。

 正直、映画より良かったと思う。けっこう大規模な階層のある劇場のセットが周りを囲み、真ん中に劇場の正面のセットがあるのだが、クライマックスの『ロミオとジュリエット』上演場面では、カーテン座の舞台をなんと人力で回転させながら舞台の表と裏を見せる動きのある演出で、このへんはいかにも舞台の醍醐味って感じだ。去年の『シェイクスピア物語〜真実の愛』は近世ロンドンの劇場セットの使い方がイマイチだったと思うのだが、このプロダクションは空間の使い方がとてもうまい。

 さらに、クリストファー・マーロウが映画よりもずいぶん活躍するところもいい。実は週末からドイツで行われる世界クリストファー・マーロウ学会で『恋におちたシェイクスピア』や『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』におけるマーロウ像についての発表をするのだが、『恋におちたシェイクスピア』はマーロウについてかなりかわいそうな扱いをしている。実はこの映画を作る前に、脚本家のマーク・ノーマンが著名なシェイクスピア研究者のスティーヴン・グリーンブラットに取材に行って、グリーンブラットはマーロウとシェイクスピアが恋に落ちてロマンス絡みでマーロウが死ぬドラマチックな恋愛ものを提案したのだが、ボツにされたらしい(いきさつをグリーンブラット本人が映画公開後に『ニューヨーク・タイムズ』に寄稿してるので、ちょっと誇張はあるのかもしれないが与太話とかじゃなく事実らしい)。この舞台版ではマーロウ(田邊真也)はかなりシェイクスピア(上川一哉)と親しく、オープニング場面からシェイクスピアの先輩格として出てきてソネット執筆を助けてくれるし、さらにヴァイオラ(山本紗衣)に求愛する場面では『シラノ・ド・ベルジュラック』よろしくバルコニーの陰からソネットのアイディアをささやいてくれる(あの有名なソネットまでマーロウが手伝ってたのかよ!と笑うところだ)。さらに最後もマーロウが出てきて、最初と最後が劇作家同士の友愛でまとまるという綺麗な構成になっている。さらに映画版ではマーロウのセクシュアリティについての言及はないのだが、舞台版ではちょっとだけほのめかしかな?と思われる台詞もある。ヴァイオラはちょっと力が入りすぎでは?と思うところもあったのだが、マーロウはかなり肩の力が抜けた演技で、そこも良かった。