悪くはないが、あまり史実には基づいていない~『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』

 『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』を見てきた。ウェストエンドの演出で有名なジョージー・ルークの監督作で、スコットランド女王メアリ(サーシャ・ローナン)とイングランド女王エリザベス(マーゴ・ロビー)の友情と確執を描いている。

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 普通なら恋多き女メアリをマーゴ・ロビー、永遠の処女ということになっているエリザベスをサーシャ・ローナンにするところだが、キャスティングを逆にしたのがうまくいっており、とくに愛に走って失敗したダメ女王みたいなイメージになりやすいメアリをちゃんと政治的に考えて行動する女王として描くことに成功している。メアリとエリザベスを、お互いに女王という立場を理解しあい、友情を感じているが最大のライバルでもある相手として奥行きをもって描いており、単なる女の敵は…みたいにしていないところも良い。ベクデル・テストはメアリと侍女の服に関する会話でパスする。舞台のノリで人種の点で自由なキャスティングをしているところもよく、エイドリアン・レスターを大使のランドルフの役にしたのは良かったと思う。役者陣の演技をはじめとして良いところはたくさんあり、つまらない映画というわけではない。

 

 一方で史実の裏付けがないところもたくさんあり、さらにそれがあんまりうまく話に貢献していない(このへんはニュース記事などでもいろいろ指摘されている)。まず、メアリとエリザベスは直接対面していないので、クライマックスの対面は史実ではないのだが、まあこれは盛り上げるために必要なのでいいとしよう。それからメアリのスコットランド英語がなんかちょっと変だと思ったのだが、フランス育ちなのでフランス訛りの英語を話したんじゃないのか…と思ったらやはりスコットランド訛りではないはずだという指摘が既になされていた。あと、メアリがたまに"Queen of Scotland"と名乗ることがあるのだが、この時代の正式な言い方は"Queen of Scots"だと思う。

 

 史実にそっているところでも、描き込みが足りないように見えるところがいくつかある。ダーンリーやリッチオが同性愛者だという説はたしかに存在するのだが、リッチオがメアリのステレオタイプなゲイ友、ダーンリーが無能なのに野心だけはあり、色気しか使えない同性愛者…というのはかなり型にはまった描き方で、新鮮さに欠けると思う(『ブーリン家の姉妹』や『ゲーム・オブ・スローンズ』でもこんなのを見たような…)。あと、ボスウェルがメアリをレイプして結婚を迫ったというのも歴史研究で言われている説のひとつにあり(このへんはあまりよくわかっておらず、メアリとボスウェルが共謀したという仮説も一応ある)、この映画はそれにそっているのだが、メアリが暴力で結婚させられたにもかかわらず、あまりショックがちゃんと描かれていない。一番ぱっとしないと思ったのはメアリとエリザベスの会見からメアリの死まで時間が飛ぶことで、なんでエリザベスがメアリの処刑を決断したのかが描かれていないのでクライマックスが妙に不消化である。このへんはもっといくらでもうまくできただろうにと思う。