現代政治を意識した演出~アイリッシュ・ナショナル・オペラ『マリア・ストゥアルダ』(配信)

 アイリッシュ・ナショナル・オペラ『マリア・ストゥアルダ』を配信で見た。ドニゼッティの作品で、ファーガス・シェイル指揮、トム・クリード演出で2022年7月に上演されたものの録画配信である。一度メトの配信で別演出を見たことある。お話はエリザベス1世メアリ・スチュアートの間の葛藤とメアリの処刑を描いたものである。

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 現代の衣装を用いたシャープな演出で、テレビクルーがイングランドの宮廷で準備をするところから始まるし、エリザベッタ(アンア・デヴィン)はスーツを着た政治家である。あんまりメロドラマに偏らない、わりと現代政治を意識した演出で、エリザベッタがユニオンジャック柄の服を着て統一UKをアピールする場面があるし、終盤のマリア・ストゥアルダ(タラ・エロート)処刑の場面ではスコットランドのナショナルカラーである青を顔に塗ったり、タータンチェックっぽい服を着た市民が"Free Mary"というプラカードを掲げて抗議運動をしていて、スコットランドナショナリズムが演出に組み込まれている。基本的にはエリザベッタとマリアの心理的な葛藤が中心なのだが、演出でモダンにすることで、エリザベッタが恋愛絡みの嫉妬のみならず、スコットランドのトップとしてマリアがかつがれることも怖れているらしいことがわかるようになっている。普段は冷たくて有能そうな政治家なのに恋愛のことでは冷静さを失うこともあるエリザベッタと、優しい性格で温かみのある声だが怒るときは怒るマリアをデヴィンとエロートが表情豊かに歌っている。

 全体的には面白かったが、たまにちょっと衣装や照明のチョイスに疑問があった。狩猟の場面でエリザベッタのおつきの者たちが着ている服はやりすぎで、ちょっと冗談かと思うような感じである。また、終盤の市民の抗議運動からマリアの最後の歌につながるところについては、もう少し証明を明るくしたほうが配信で見るほうはありがたいと思った。