革命指導者ジーザスと融通の利かないジューダス~『ジーザス・クライスト・スーパースター』(配信)

 アンドルー・ロイド・ウェバーがYouTubeで週末に配信した『ジーザス・クライスト・スーパースター』を見た。これは2012年、オーディション番組でジーザス役に選ばれたベン・フォスターを主演に、ジューダス(ユダ)がティム・ミンチン、メアリ(マグダラのマリア)が元スパイスガールズのメルC役で、イギリス全土のアリーナで上演されたものである。アリーナ公演なのもあってどうもDVDに収録された時はちょっと音が調整されてたらしい。同じものかな?

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 アンドルー・ロイド・ウェバーが最後に挨拶で言っているように、『ジーザス・クライスト・スーパースター』はロックミュージカルで、ふつうの劇場でやるよりはライヴハウスとかアリーナでやったほうが映えそうな演目である。73年の映画版は砂漠に仮設のセットを組み立てて上演するみたいな枠に入っていたが、このアリーナプロダクションもかなりそういう美術スタイルで、野外に設置された階段みたいなセットと大きなスクリーンを組み合わせてロックのライヴみたいな見栄えにしている。

 演出は完全に現代風のもので、全員現代の衣装を着ているし、ジーザスは革命指導者みたいな位置づけ、ジューダスはとにかく融通が利かなくて憂鬱な気質の過激派で、ジーザスがぬるいと考えて警察に売ってしまう政治的な不満分子のように描かれている。最初から後ろのスクリーンにハッシュタグとしてFollow the Twelveというのが映し出されているのだが、これはたぶん十二使徒の活動をフォローしようという聖書的コンテクストに、オキュパイ運動など現代のSNSを使った政治活動を重ねているものだと思われる。ジーザスの顔をチェ・ゲバラっぽくデザインしたバナーが出てきたり、サイモンはゲバラTシャツを着ていたり、とにかく現代政治を意識した演出だ(オキュパイ風の政治運動を取り入れるという点では、同年にナショナルシアターがやった『アテネのタイモン』とちょっと近いかもしれない)。

 あと、面白いのはヘロデ王がリアリティショーの派手なホストだということだ(最後に「明日はワン・ダイレクションにインタビューします」とアドリブ?で台詞を付け加えていた)。ジーザスが処刑されるかどうかもリアリティショーの視聴者投票で決まってしまうというところはかなり諷刺的である。こういうけっこう深刻な内容を扱った話をリアリティショー風にやるというのは既に2011年(この前年)にロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが『ヴェニスの商人』でやっているし、2012年にリージェント・パークでやった『夏の夜の夢』もリアリティショーベースの演出だったので、たぶんこの当時はこういうのが流行っていたんだと思う。

 全体的にはジーザスとジューダスの絡みで全部持って行ってしまうようなプロダクションである。言い方は悪いが、ジーザスとジューダスはいかにも「顔で選んだ」感があり、おそらくわざと西洋の宗教画から抜け出してきたみたいな典型的な長髪のイケメンとして作られているジーザスと、赤毛(聖書のユダは赤毛だったという俗信がある)でワル顔のジューダスが対比されている。ジューダス役のティム・ミンチンの演技が大変良く、ワル顔なのだがワルになりきれない人間味があって、たぶんこのショーで一番カリスマのある役者だろうと思った。なお、歌についてはキャスト全員についてもうちょっと安定感が欲しいところもあり、ジーザスはわりと安定してるのだが、おそらく本来であれば大きい胸声が必要な役であるジューダスにはミンチンの声質は若干無理し気味かもというところもあるし、メルCはもっと歌の感情表現が欲しいところだが、そうは言っても全体としてはまとまりのある面白いプロダクションだと思う。