パワフルで親密感のある演出~メトロポリタンオペラ『ドン・パスクワーレ』(配信)

 無料配信でメトロポリタンオペラ『ドン・パスクワーレ』を見た。これは2010年の上演をMETライブビューイング用に撮影したものの無料限定公開である。ドニゼッティによるイタリア語のオペラで、英語字幕がつく。

www.youtube.com

 この演目は去年1度新国立で見たのだが、ベン・ジョンソンの『エピシーン』をおそらく下敷きにしていると思われる。新国立で見た時は字幕やパンフがイマイチはっきりしておらず、公証人が偽物なのがよくわからなかったのだが、メト版の英語字幕は公証人がでっちあげだということがはっきりわかるようになっていて、正直、字幕はこっちのほうがわかりやすかった。

 

 内容は若者の恋路を邪魔する横暴な老人を恋人たちがとっちめるコメディで、気楽に見られる楽しい作品だ。セットや衣装などは19世紀のイタリア風だが、ノリーナ(アンナ・ネトレプコ)がコルセット姿で動き回りながらくつろぐところを見せるなど、ちょっとリラックスというかドレスダウンした雰囲気を出すような衣装の使い方をしていると思った。

 

 前に見たプロダクションと比べて思ったのが、ノリーナがものすごくパワフルだということだ。去年見たハスミック・トロシャンのノリーナはわりと軽妙さもあったのだが、アンナ・ネトレプコのノリーナは、身長は小柄なのに歌いぶりといい立ち居振る舞いといい、本当に頭も腕っ節も他の人が太刀打ち出来なそうな感じだ。最初のアリアを歌うところで、自分は男心を操作する術なんて全部心得ていると言のだが、そこがあまりにも強そうなので、いやたしかにこんな賢い女にかかればみんな赤子の手をひねるようなもんだろうと思えてくる。

 あと、ちょっとこれはわからないのだが、マラテスタ(マリウス・クウィーチェン)ってゲイなのかな…と思った。けっこうマラテスタがエルネスト(マシュー・ポレンザーニ)に親しくボディタッチする演出があり、親友を助けてやろうというには骨を折りすぎている気がするし、最初はエルネストに打ち上けずに計画を進めてしまうあたりもちょっと不可思議なので、実はエルネストが好きなのかも…と思った。ただ、このプロダクションはエルネストがかなり良い男だったのと(前見たプロダクションはエルネストがちょっとイマイチで影が薄かった)、あと全体的に若者同士の仲の良さが前に出ていてわちゃわちゃした中にも親密でパワフルな感じのある演出だったので、ボディタッチもその一環であるだけかもしれない。