ベン・ジョンソンの『エピシーン』にちょっと似た爆笑オペラ~『ドン・パスクワーレ』

 新国立劇場ドニゼッティの『ドン・パスクワーレ』を見てきた。あまり予備知識なしで行ったのだが、大変面白かった。

 ご老人のドン・パスクワーレは相続人である甥のエルネストが自分の言うとおりに結婚せず、貧しいが機転の利く美しい寡婦ノリーナと結婚するつもりなのを見て、自分が結婚すると言い始める。これを見た医師マラテスタは、ノリーナを自分の妹に仕立ててドン・パスクワーレと結婚させ、一泡ふかせてやるという計略を思いつくが…

 話はかなりムチャクチャで筋は通っていない。奥ゆかしいノリーナが結婚後はとんでもない悪妻に変身してドン・パスクワーレが離婚を求め、最後に騙されたと知ってエルネストとノリーナの結婚を認めるというオチになるのだが、おそらくノリーナとドン・パスクワーレの間には性交渉はないと思われるものの、一度結婚してしまったのを解消するのはかなりの手間だし、そもそもマラテスタがあまり周りの人に計画をちゃんと伝えず暗躍しはじめたせいで大混乱になるし、ずいぶんと緩い台本だ。オペラでドタバタ喜劇でなければ最後まで見られないくらいめちゃめちゃな展開だと思う…のだが、回転するなかなか可愛らしいセットと楽しい音楽で笑って愉快に見られる。とくにヒロインのノリーナはとても賢くてなかなか強烈なキャラクターで、この役を歌っているハスミック・トロシャンも伸びやかな声で生き生きと演じている。ただ、エルネスト役の人はちょっと素人でもわかるくらい不調だった。

 イタリアの作品だが、近世イングランドベン・ジョンソンの喜劇『エピシーン』に似ている。これは偏屈な男が相続人の甥をさしおいて結婚しようとしたところ、策略にひっかかって無口な女を装った少年と結婚させられ、この「妻」が結婚後急にうるさい悪妻に変身するという話だ。どうも影響関係があるらしい。