相変わらずふしぎな終わり方~『スカパンの悪だくみ』

 先日の『病は気から』に引き続き、『スカパンの悪だくみ』をル・シネマで見た。こちらもモリエール生誕400年記念で、コメディ・フランセーズで上演されたものを撮って映画館で上映する企画の一部である。ドゥニ・ポダリデスの演出で2017年に上演されたものである。衣装はクリスチャン・ラクロワが担当している。

 港町ナポリの青年オクターヴ(ジュリアン・フリソン)は父アルガント(ジル・ダヴィッド)の留守の間に勝手に恋人イアサント(ポーリーヌ・クレモン)と結婚してしまっていたが、アルガントは仕事仲間であるジェロント(ディディエ・サンドル)がしばらくよそに預けていた娘とオクターヴを結婚させるつもりだった。オクターヴはジェロントの息子レアンドル(ガエル・カミランディ)の使用人である賢いスカパン(バンジャマン・ラヴェルネ)に泣きつく。一方でレアンドルもジプシーの娘ゼルビネットアデリーヌ・デルミー)と結婚するため、身請け代金の工面が必要で、スカパンに頼るほかない。2人の恋路のためにスカパンは一肌脱ぐことにする。

 スカパンがかなり悪賢い召使いで、単に若い者の恋を応援するというだけではなく、威張り腐っている父親たちをけっこうえぐい方法でバカにして笑いものにする。この逆襲の方法がけっこう暴力的で、ジェロントを騙して袋詰めにして棒でぶん殴るというものである。全体的にけっこう粗野な感じで、『人間ぎらい』とか『病は気から』(これも粗野なところはあるが)に比べると、面白いところはたくさんあってもだいぶ荒削りな喜劇だという印象を受けた。ただ、ジプシー娘ゼルビネットの描写についてはあまり型にはまらないよう生き生きした現代女性のような感じにしていて、そこは良かった。

 シェイクスピア劇を見慣れた目からすると、こういう人をボカスカぶん殴るのが可笑しい、みたいなのはけっこう古風に見える。シェイクスピア劇でも初期の『間違いの喜劇』とか『じゃじゃ馬ならし』にはそういう要素があるのだが、その後の芝居になるとどんどん暴力の描写も笑いのあり方も複雑化してあんまり出てこなくなる。その点ではモリエールのほうがちょっと後の芝居なのに古風であるような気がするのだが、一方でいろいろやばいことをしまくったスカパンがいまにも死にそうなふりをして許してもらおうとするオチはむしろ18世紀的…というか、強引さとかナンセンスな笑いがむしろジョン・ゲイの『ベガーズ・オペラ』とかに近いように思える。『病は気から』もふしぎな終わり方だったので、この笑いはけっこう古風なのにオチが新しい感じなのが特徴なのだろうか…と思った。いずれにせよ、今年の秋はモリエールの芝居がたくさん見られるので、いろいろな演出で楽しんでこのへんを考えたい。