リージェントパーク野外劇場『夏の夜の夢』〜シェイクスピアmeetsジプシーウェディング?

 リージェントパークの野外劇場(オープンエアシアター)で『夏の夜の夢』を見てきた。去年までは夏帰国しててスケジュールがあわず行けなかったので、なんと今回が初めて。

 とりあえずリージェントパークに向かう。
 

 というかリージェントパークも行ったことなかった。

 白鳥の遊ぶのどかな水辺。

 夏の終わりの薔薇。

 野外劇場はこんな感じで、みんな観劇というよりピクニック気分。バーベキューの煙でにおいがすごい。

 途中で雨が降って寒くなったので観劇環境としてはかなりイマイチだったのだが、晴れた日なら絶対に気持ちいいと思う。

 さて、演目の夏夢のほうだが、とりあえず最初、工事現場の仮設住宅みたいなセットが何を意味しているのか全然わからなくて休憩時間に調べた…ところ、これは最近チャンネル4で放送されてるMy Big Fat Gypsy Wedding(『マイ・ビッグ・ファット・ジプシー・ウェディング』)という番組への言及らしい。

 これは英国内に住んでいるロマやアイリッシュトラベラー(『スナッチ』でプラット・ピットがやってた役はアイリッシュトラベラーという設定)の冠婚葬祭に取材したドキュメンタリーだかリアリティショーだかだそうで、テレビをほとんど見ない上うちはチャンネル4が入らないので全く知らなかったのだが、結構人気のある番組らしい。ロマやアイリッシュトラベラーは独自の文化を持っている民族集団でいろいろな差別などにさらされているのだが、ロマやトラベラーの結婚式はそういう独自文化とイギリスのメインストリームの文化がまざった非常に独特で盛大なものだそうで、女性はとんでもなくでっかい派手なドレスを着る習慣があるらしい。

 最初っから若者たちが住宅の前でケンカしたりとかけっこう不穏な雰囲気なのだが、最後の三組のカップルの結婚式はまあ乱痴気騒ぎで、ヒポリタのドレスとか一人で着られるとは思えないようなデカいものだし、バーゴマスクのバカ踊りもいろいろな現代の盛り上がるダンスをつなげたものでやたら派手だし、こりゃテレビでこの番組を見ておけばよかったなと思ってしまった。見てたらもっとわかっただろうに…

 しかし、全体的にプロダクションはそんなに面白くはなかったと思う。とりあえず最初の場面でえっと思って最後まで続いたのは、シーシアスがやたら粗暴なDV男でヒポリタとのしゃれたセリフのやりとりが生きてないということである。シーシアスとヒポリタは大きく分けて「戦闘男女同士いろいろあったけどそれでも実はお似合いのカップル」みたいにする演出と「シーシアスに武力で征服され不本意な結婚を迫られている悲劇的な女性ヒポリタ」みたいにする二パターンの演出があると思うのだが、これは明らかに後者…なんだけどなんか2人ともえらい粗暴で、こういう路線でいくなら一応シーシアスは「粗暴でも市民からは頼られるヤクザの親分」ふうに作らないといけないと思うのだが、ただの度量のないチンピラみたいでこれでアテネを治めているとはあまり思えない。ヒポリタもなんか元アマゾンの勇者とは思えないほどそこらを歩いているおねーちゃん風なので、シーシアスと並ぶとどこにでもいる共依存カップルのようである。またなんかまあそういうのを狙ったのかもしれないが、この2人に割り当てられている台詞はこの芝居の中でもかなり洗練されたものだと思うので、なんかそういう2人がおしゃれな台詞を言うとちょっと見ていてあまりワケがわからない。

 あと、これは完全に好みの問題だと思うのだが、私はヘレナがあまり好きになれなかったな…批評では褒められているのだが、森に行くのにずーっとハイヒールを履いてよちよち歩きで笑いをとるところが著しくリアリティに欠けてて全然演技を楽しめなかった。あとタイターニアも褒められててたしかに堂々としていたと思うのだが、タイターニア周りの演出はかなりわざとらしくてあまりよくなかったように思う。タイターニアとボトムの露骨な性描写はけっこう笑えるのでまあ私は別にいいと思うのだが、別にセックスとかしてない時もかなり大袈裟な演出で入退場するあたり途中で飽きてくる。全体的に女性のキャラクター造形は弱い気がした。
 
 ただ、面白いところもいっぱいある。バイクに乗って登場する不穏なパックは良かったし、突然オペラ(なぜか使用曲がベートーベンの『運命』)を始める職人劇団も非常に笑える。結婚式の場面は歌や踊りで大騒ぎで、登場するのも知っている曲ばかりなのでお客さんも歌ったり踊ったり手拍子したりして楽しかった。

 あと、やっぱり祝祭的な上演だからなのか、かなりいつもウェストエンドやオフウェストエンドで見てる時とは客層が違って芝居慣れしてない人が多い。もちろんみんなビール飲んだりクリスプ食ったりしながら見てるし、我々のように批判する気満々で来ていないので笑いとか手拍子とかへのリアクションが大きい。ただ、三つ隣の席のヤツが煙草すいはじめた時はほんとふざけんなと思ったな…注意しようかと思ったのだがわりと遠かったのでできなかったし。