旧約聖書を題材に男の嫉妬とBLを~グラインドボーン『サウル』(配信)

 年末年始に無料配信されているグラインドボーンの『サウル』を見た。ヘンデルのオラトリオをちゃんとオペラっぽく演出したものである。2015年の上演で、演出家はバリー・コスキー、指揮はアイヴァー・ボルトンである。

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 話は基本的に旧約聖書ダヴィデとサウルの話に準拠している。ゴリアテをやっつけたダヴィデ(イェスティン・デイヴィス)はイスラエルで大人気で、サウル王(クリストファー・パーヴィス)の息子ヨナタン(ポール・アップルビー)も次女ミカル(ソフィ・ビーヴァン)もダヴィデに夢中である。あまりのダヴィデ人気に嫉妬したサウルはダヴィデを殺そうとするが、結局サウルとヨナタンは戦死し、ダヴィデがイスラエルの次なる指導者になる。

 カラフルな衣装やセットを使った現代的な演出である。サウルは気まぐれでダヴィデを褒めたかと思えば急に異常な嫉妬心にかられる困った政治家で、2015年の上演だがちょっとトランプとかを思い出してしまうようなところもある。子どもたちは全員、父親のことを想ってはいるのだが、その態度にいつも手を焼いている。ダヴィデは信心深くて大変真面目な若者で、戦いでは勇敢だがふだんは礼儀正しく、むら気なサウルに比べて一般市民に好かれる要素がたくさんある。サウルの長女メラブ(ルーシー・クロウ)は最初は身分の低いダヴィデと結婚したくないと言っていたのだが、ダヴィデが妹と結婚するともう家族になったんだからと言って父親がダヴィデに対して残酷なのを批判するようになる。ヨナタンダヴィデにベタ惚れで、中盤ではキスする演出もあり、明らかにダヴィデに恋をしている。全体的にはダヴィデの敬虔で真面目な性格を称えているとは言えけっこうメチャクチャな話で、それを豪華な音楽とちょっとたまにやりすぎ感もある演出で面白く見せている。