スタントン(6)とにかくセクシーな愛と政治のローマ劇~ブラックフライアーズ劇場『アントニーとクレオパトラ』

 ブラックフライアーズ劇場で引き続き『アントニークレオパトラ』を見た。アントニー(ジェフリー・ケント)やオクテーヴィアス(マイケル・マノッキア)などのキャストは昨日見た『ジュリアス・シーザー』と同じだが、クレオパトラ(ゾーイ・スピアス)は『シーザーとクレオパトラ』とは異なり、少し年上で白人女性という設定になっている。

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 この日はなんと舞台上の市民席で見たのだが、とにかく役者が近くてド迫力だった。そして今まで見た中でもかなり素晴らしい出来の『アントニークレオパトラ』だった。昨日の『ジュリアス・シーザー』ではワルだったアントニーが愛に目がくらみがちで欠点も魅力もごっそり持ち合わせた男に変わっている一方、クレオパトラはすごくセクシーで鋭くい女性だ。ふつうのプロダクションよりもちょっと2人の設定が若く、とにかく情熱的かつ官能的に愛し合っている。しょっぱなから金色のベッドで2人がセックスしているところから始まり、アントニーが"Here is my space."「ここが俺のいるべき場所だ」というところではクレオパトラの足の間を指すなど、アントニーは完全に愛と情欲に溺れている。クレオパトラアントニーにぞっこんだが、もうちょっといろいろ考えているフシがある。

 

 主演の2人が若めであることもあり、かなりテンポが速くて、カットはあるものの2時間20分(+休憩)で終わるスピーディなプロダクションだ(私が気に入っているがめったに上演されないシリューカスのくだりはカットだった)。面白い演出としては、ローマから来た使者シディアスに会うところで、クレオパトラが侍女のシャーミアン(コンスタンス・スウェイン)を呼んでこっそり耳打ちするというものがある。クレオパトラはどうやら腹に一物あるようで、アントニーを裏切るつもりはないようなのだが、何かローマと交渉して時間稼ぎをするつもりらしくて、侍女たちの助けを必要としているらしい。全体的にクレオパトラとシャーミアン、アイアラスたちの絆はかなり親密なものとして描かれているのだが、クレオパトラが政治家として頭を働かせているところで女同士の助けを必要とするというのはなかなか気の利いた演出だ。なお、実はこれについて主演女優のゾーイさんと懇親会で話す機会があり、侍女たちの親密さはやはり非常に強調したかったところらしい。

 全体的にとにかくエネルギッシュで、笑いのツボも押さえているし、セクシーな恋愛劇である一方ちゃんとした政治劇で、これこそ私が見たい『アントニークレオパトラ』だと思った。映像化されないかな…