ちょっとカットのやり方が…明治大学シェイクスピアプロジェクト『ローマ英雄伝』

 明治大学シェイクスピアプロジェクト『ローマ英雄伝』を見てきた。『ジュリアス・シーザー』と『アントニークレオパトラ』を二部構成でやるというものである。

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 2016年の『Midsummer Nightmare』に参加したスタッフが演出しているそうで、二段になったセットを強調する美術などはちょっとその時のスタイルに似ていると思った。衣装については、ローマ人たちはちょっと和風+ローマ風という感じだ。役者陣についても主演陣は悪くなく、とくにアントニークレオパトラは大変頑張っていたと思う。また、私は『ジュリアス・シーザー』ではルーシャスがとにかく眠たいのに不眠の主人ブルータスに忠実に仕えていて一番かわいそうなキャラだと思っていたのだが、このプロダクションのルーシャスは若い学生がやっているだけあって本当に眠そうな若者で、なかなか良かった。とにかくたくさん人が出てくるのがローマ劇なのだが、学生の人海戦術でスケール感を出しているのは良い。

 

 一方で今年は台本のカットの仕方にかなり疑問があった。この二作を3時間半くらいに手際良くおさめているのだが、前半『ジュリアス・シーザー』で、ブルータスがシーザー暗殺に参加すると決意した後、たずねてきたキャシアスと密談する場面がカットされているので(ここはお客さんには聞こえないが、何を話したか推測できるようになっている)、ブルータスがいつ自分の意図を明確にキャシアスに伝えたのかよくわからなくなっていると思った。また、『アントニークレオパトラ』ではイノバーバスの役割がやたら小さくなっており、有名なアントニークレオパトラの出会いを語る台詞(一番の見せ場のひとつ)がなくなっている上、イノバーバスの死の場面もない。イノバーバス死亡場面はともかく、出会いを語る台詞は省略してはダメだろうと思う。

 

 また、ちょっとジェンダーのほうでも疑問点があった。まず、キャッチコピーが「激動の時代に生きた男たちと、彼らを愛した女たち」なのは非常に良くない。というのも、『ジュリアス・シーザー』だけならともかく、『アントニークレオパトラ』は激動の時代の中心に政治家である女性クレオパトラがいるからだ。さらに、『アントニークレオパトラ』で、アントニークレオパトラを殴るのにその後すぐ仲直りしてしまう演出はちょっとどうかと思った。この2人をそういう感じの悪循環の泥沼に陥った共依存カップルみたいに描きたいならそれでもいいと思うのだが、全体としてはとくにそういう感じがなく情熱的に愛し合っているのに、誇り高いクレオパトラが自分を殴ったアントニーをすぐ許してしまうのは心理の進み方としておかしいと思う。