ストックホルム症候群を描くオフビートなコメディ~『ストックホルム・ケース』

 『ストックホルム・ケース』を見てきた。イーサン・ホークが『ブルーに生まれついて』で一緒に仕事をしたロバート・バドロー監督と再度組んだ作品である。ストックホルム症候群という言葉が誕生するきっかけとなったノルマルム広場のクレジット銀行強盗事件を描いたものである。完全に史実に沿っているわけではなく、登場人物の名前や設定は変わっており、だいぶ脚色があると思われる。

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 主人公であるアメリカ育ちのスウェーデン人ラース(イーサン・ホーク)は、ひとりでノルマルム広場の銀行を襲撃する。行員たちを人質にとり、親友で銀行強盗で服役中のグンナー(マーク・ストロング)の釈放と逃走資金の提供を要求する。最初は怯えていたビアンカノオミ・ラパス)たち行員だが、犯罪者にしてはプロらしくないラースにいつの間にか親近感を抱くようになってしまう。

 とにかくラースが銀行強盗にしてはかなり愛嬌のあって抜けている感じの男で、あんまり怖くない。作中でもほのめかされているのだが、以前行った犯罪でも本格的に人を傷つけるようなことができなかったようで、言ってみれば犯罪者としては二流である。さらにスウェーデンでこんなに大規模な人質立てこもり事件が起こったことは初めてであったために警察があまりてきぱき処理できず、人質たちがラジオなどを通して外の報道に触れられるせいで、銀行の中にいる者はみんな警察が優秀だと思えなくなっていくという経過も描かれている。この作品では、そういうふうにかなり犯罪者自身の個性に起因する状況と警察不信のせいでストックホルム症候群が起こった、という描き方になっている。このアプローチは見ていて面白いし、どんな状況でもストックホルム症候群が起こるわけではないということもわかるので良いところもある一方(ストックホルム症候群というのは人口に膾炙しているが、目立ったケースが大きく報道されているだけで、あらゆる人質事件で起こるというわけではないらしい)、実際のショッキングな事件を綴るアプローチとして良いのかな…という気もした。なんかちょっとイーサン・ホーク自身の魅力に頼りすぎているような気もするし、ビアンカとラースのやりとりにはちょっとセンチメンタルすぎるところもある。悪くはない作品だが、細やかさという点では『ブルーに生まれついて』のほうがだいぶ良かったと思う。