テーマとフェティシズム~『カード・カウンター』(ネタバレあり)

 ポール・シュレイダー監督・脚本『カード・カウンター』を見てきた。

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 ウィリアム・テルオスカー・アイザック)はアブグレイブ刑務所における捕虜虐待のかどで軍の刑務所で服役し、その間にカードカウンティングを覚えて出所後はギャンブラーとして暮らしていた。静かに暮らしていたウィリアムだが、ギャンブラーとパトロンをつなぐマネジメント業をしているラ・リンダ(ティファニー・ハディッシュ)と、同じく捕虜虐待で軍をやめた後人生がメチャクチャになった元軍人の息子だというカーク(タイ・シェリダン)に出会う。この2人との出会いがきっかけで、ウィリアムはポーカーの世界大会に出ることにするが…

 最初からウィリアムの背景が完全に明かされることなく、ちょっとずつ小出しで過去の犯罪やトラウマが明かされていくあたりがスリリングである。ウィリアムはギャンブラーなのだが、暮らしぶりに華やかなところが全然なく、途中でカークが言っているように同じことを繰り返す勤め人みたいな生活が描かれているところはちょっと面白く、またウィリアム自身が静かに贖罪をしながら暮らしたいと思っているところとも結びつけられている。途中からはラ・リンダやカークをめぐる人情ものになるのか…と思いきや、ポール・シュレイダーなのでそうはならず、終盤はとんでもないバッドエンドになる。主人公のウィリアムが結局トラウマを克服して更生することができておらず、自分はむしろ加害者ではなくて被害者なのだという感情にとらわれていて先に進めていないということが明確に示される大変暗いラストが用意されている。

 全体的に、非常に複雑な主人公を中心に据えた重いテーマの作品なのだが、一方で主演のオスカー・アイザックの男性身体の美しさに対して映像がかなりフェティッシュ的な関心を寄せており、そのへんが見ていてけっこう個人的には苦手である。シュレイダーの前作『魂のゆくえ』でも、「かわいそうなイーサン・ホークをそんなにハンサムに撮る必要ありますかね?」と思うところがあったのだが、この作品でもオスカー・アイザックのこざっぱりした服を着て地味ながらも渋くてハンサムなギャンブラー姿はもちろん、服を脱いだ時の孤独な背中に刻まれた刺青とかをやたらねっとり撮っており、悲惨な話なのにアイザックじたいはえらい綺麗である。若い美男子が苦しむところをなんかフェティッシュ的に撮るというのはけっこうあって、私はそんなに好きではないのだが、シュレイダーが(とくにここ2作)でやっているのは中年のあんまりマッチョではないがハンサムな男性が苦しんでいるところをやたら綺麗に撮るという手法で、なんかものすごいこだわりを感じるのだが、一方でこういう重いテーマにからめて美男子の苦痛をスペクタクル化するみたいな撮り方は私は苦手である。