アメリカでなかなか売れなかった最初の女性ロックスター~『スージーQ』

 スージー・クアトロに関するドキュメンタリー『スージーQ』を見た。

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 スージー・クアトロの幅広いキャリアをプレジャー・シーカーズの頃から追うものである。クアトロ姉妹を中心に結成されたデトロイトのプレジャー・シーカーズは女性だけのロックバンドとしては最も古いもののひとつで、ベース奏者のスージー・クアトロ以外に後でファニー(これも女性だけのロックバンドとしては非常に初期のものとして有名)に入ったパティ・クアトロもここで活動していた。スージーはソロになってイギリスで大成功し、最初の商業的に成功した女性ロックスターとして歴史に名を残すことになる。

 ランナウェイズのメンバーやデビー・ハリーをはじめとする後世の女性ロックミュージシャンがいかにスージーに憧れ、影響を受けたかということをわかりやすく説明している(スージーのレザービキニのポスターが誰に盗まれたのかは大きな謎だ)。一方、スージーアメリカで全然売れず、そのせいでキャリアに影響があったことも描かれている。スージーはスタイルはあんまりグラムロックっぽくなかったが、受容としては完全にグラムロックで、マーク・ボランやデイヴィッド・ボウイ、スレイド、スウィートなんかと同じような形で受け取られていたということが指摘されており、これはまさにそう…というか、そこがアメリカで売れなかった一因として提示されている。スージーは他の男性ミュージシャンとは違うやり方でジェンダーステレオタイプの問い直しをしており、小柄な若い女性が男性ロックミュージシャンの衣装であるジャンプスーツに身を包んで驚くほどエネルギッシュにステージで歌い、演奏することで、典型的な男らしさをパロディにするみたいな面白さがあった。これはグラムロック的なキャンプの美学そのものなのだが、アメリカではそもそもそういうユーモアをまじえてジェンダーの境界を問うみたいな発想が全然受けなかった(ニューヨーク・ドールズがいまだにロックの殿堂に入っていないのを見れば、今でもアメリカはそういうことに冷たいのがわかる)。

 一方でスージーはヨーロッパやオセアニア、日本では大変人気があった。日本ではパブリシティのために着物を着て結婚式をやるというイベントをやったそうで、いまだに映画などでは存在する海外スターのトンチキ宣伝をこの頃は大規模にやってたんだな…と思った。オーストラリアでもえらい人気だったそうなのだが、オーストラリアはスージーといいカイリー・ミノーグといい、小柄なのにビックリするようなレベルのエネルギーを発しているディーヴァに何かこだわりでもあるんだろうかと思った。しかしながら女性ロックスターが珍しかったのでセクハラ的な扱いやメディアによるディスもあり、とくにテレビでスージーがお尻を叩かれる場面は今では考えられないようなひどい扱いだと思った(デヴィッド・ボウイミック・ジャガーがいくらパッツンパッツンのかっこいいズボンはいてても、テレビでそんなことしないでしょ?)。

 70年代末以降、スージーはかなり演技のほうの仕事をしていて、テレビドラマや舞台に出演し、シンデレラのパントマイムで王子の役もやったらしい(パントマイムの王子様は女優がやることがある)。タルラー・バンクヘッドについてのミュージカルを作ったそうで、これは残っている映像がちょっとだけ見られたのだが、再演しないのかな…と思った。面白そうなのでどこかで再演してほしい。