マリリンとエルヴィスのようなシェリーとジョーン、あるいはセックスシンボルの成功と挫折〜『ザ・ランナウェイズ』(The Runaways)

 私が熱愛していて携帯電話のアドレスにも使っている伝説的なガールズロックバンド、ランナウェイズの伝記映画『ザ・ランナウェイズ』(The Runaways)を見てきた。

 ランナウェイズは70年代のバンドなのだが、メンバーが全員女性で演奏も作曲も全部自分たちでやるバンドとしては初めてメジャーになったということで、ガールズロックの歴史において燦然と輝く存在である。デビュー当時に人気があったのは超露出度の高い衣装で派手なパフォーマンスをするブロンドのヴォーカル、シェリー・カーリー(当時15歳)だったのだが、その後有名になったのはギタリストで「ロックの女王」にして「最後のロックンロールスター」と呼ばれることになるジョーン・ジェットとか、やっぱりギタリストでヘヴィメタル系の曲でヒットをとばしたリタ・フォードなんかのほうである。このバンドは結成数年で解散し、結局シェリーは一発花火だったのだが、この映画はそれはどうしてかということにわりと焦点をあてている。


 この映画では、もともとシェリー・カーリー(ダコタ・ファニング)はグラムロックが好きで街のクラブでは一番スタイリッシュな女の子だったのだが、いわゆる「パフォーマー」であってロックミュージシャンというわけではなかったというような描き方になっている。前半でシェリーはタレントショーでボウイっぽい扮装をして踊ったりするのだが曲は口パクだし、ランナウェイズのオーディションでペギー・リーの「フィーヴァー」なんかを歌おうとしたりするのもシェリーがロックじゃなくスタイルを志向していることを示している…のだが、こういう「音ではなくスタイルを志向する」若者がバンドに入ったりするというあたりがものすごくグラムの時代っぽいよなぁ…「ロキシー・ミュージックは他の何よりもマリリン・モンローに近かった」という名言があるのだが、とくにこの頃のイギリスのグラムロックのバンドにとってはわざとらしい過去への言及に満ちたクラッシーかつ扇情的なスタイルというのは必須のものであった。しかしながらジェットをはじめとしたランナウェイズの他のメンバーは非常に音志向でしかもアメリカふうのハードロックをやりたがっているんだけど、シェリーだけがものすごくグラムロック的なスタイル志向で、そのスタイル志向がプロデューサーのキムの意向もあってどんどんセックスシンボル的な方向に行ってしまうというところがなかなかに悲劇的だと思った。セックスシンボル扱いされることに耐えられなくなったシェリーは結局バンドを脱退し、薬の中毒で入院することになる。ランナウェイズが登場したことで初めて若い女性は楽器を自分で演奏してバンドを組むことができるようになったが、ロキシー・ミュージックみたいにダンディなスタイルを確立することは結局できなくてあからさまにセックスを売り物にしないと商業的には成功できなかったのである。


 で、この映画でシェリーを演じているのはダコタ・ファニングなのだが、15歳とは思えないおそろしい妖艶さで全くこっちが色香にあてられそうになった。歌はあまりうまくないのだがパフォーマンスだけはすごくて、そういうところがかえってリアルでいいかも。とくに素晴らしいと思ったのは、開演前にものすごく高いヒールで薬の錠剤を踏みつぶしてそれを吸い込んでからステージに出る場面。ここは「どうにかして自分を作らないと人前に出られない」というあの感覚が大変よく表れていて、やはりダコタは大変いい女優だなと思った。


 一方ジョーンを演じているのは『トワイライト』シリーズのクリスティン・スチュワートなのだが、これも大変好演している。ジョーンはバイセクシュアルだという噂で、この映画にもシェリーとジョーンの同性愛関係をほのめかす場面が非常にたくさんあるのだが(もっとあからさまにやってもよかったと思うが、ダコタをこれ以上脱がせるわけにもいかないだろうし、ジョーンは自分の性的指向について明言してないと思うからこれが限界か…)、面白いことに、映画の中でシェリー(ブロンドのグラマーガール)とべたべたしているジョーン(革ジャンのロックスター)はまるでマリリンとエルヴィスみたいである。マリリンはドラァグクイーンのお気に入り、エルヴィスはドラァグキングのお気に入りのアイコンだということを考えると、シェリーとジョーンの同性愛関係はなんかものすごくアイコニックだ。シェリーに焦点を合わせた「セックスシンボルの成功と挫折」という悲劇的なストーリー自体が非常にキャンプなモチーフであると言えると思うし(ジョーンに焦点をあてたほうが音楽史的には面白いに決まってるのだがそうしてない)、この映画はゲイやレズビアンのお客さんをかなり意識してるんじゃないのかな…


 …うーん、ちょっとあまり冷静に見ることのできない内容だったので全然うまくまとまらなかったが、まあこの映画、作りはベターっとしててあまり起伏があるわけじゃないし(ロックバンドの毎日単調に荒れ続ける生活ってことではリアルなのかもしれないが)、難点はいっぱいあると思うのだが(とくに最後のジョーンが水に浮かぶカットとかいらなくないか?)、そうは言っても一度でもロックとかにはまったことのある女子にはちょっと抗いがたい魅力のある作品なんじゃないかと思った。役者もみんな頑張ってるし(言い忘れたけどアメリカ版マルコム・マクラーレンみたいなキム・フォウリーのロクでもないヤバいプロデューサーっぷりも面白い)、音楽の演出もロック映画らしく「いいところは全部聞かせるように編集する」ようになってて選曲もツボをついてるので、非常に満足できた。そんなわけで超おすすめ。日本では公開されないの?