クラシック・ロックだけで作ったジュークボックスロックミュージカル『ロック・オヴ・エイジズ』(Rock of Ages)〜いやなんかもうマジムカつく。ふつふつと怒りが

 シャフツベリ座で『ロック・オヴ・エイジズ』(Rock of Ages)を見た。いやぁひどかった…

 何がひどいって話がひどい。前に見たクイーンのジュークボックスミュージカル『ウィー・ウィル・ロック・ユー』(We Will Rock You)も話は不出来なB級SFでなかなかひどかったが、あれはクイーンオタクが妄想で趣味に走って結果的に出来が悪いだけだと思うのでかわいげがあるから笑って許せる(山っ気を出して商業的成功を狙ったんならあんなB級SFコメディを狙ったりしないと思うの)。しかしながら『ロック・オブ・エイジズ』は『ウィー・ウィル・ロック・ユー』よりだいぶ話がちゃんとできているのだが、その話がすげー保守的で80年代の景気が良かった頃にめちゃめちゃやって今は素知らぬ顔で金稼いでミドルクラスになってる奴らの自己正当化そのまんまの話なの!だからムカつく。

 話はまあハリウッドに出て来たsmall town girlとロックスターを目指す青年の恋物語に老舗のロッククラブを守ろうとするロサンゼルス!な人たちと再開発を企む道徳主義的なドイツ人の戦いを絡めたものなのだが、まあこの恋物語がひどい。女子のほうはロックスターのステイシーに騙されて仕事を首になった後ストリップクラブで働き、青年のほうもデビューに失敗して、「夢はかなわなかったけど小さな幸せを…」みたいな感じで最後にくっついて、郊外で幸せな家庭を築いて子供を作りました…という後日談でおしまい。
 ふ ざ け ん な
 あのな、これリアルタイムで語ってるからふつうのいい話みたいに見えるけど、2012年の時点で見たら、80年代に思いっきりワイルドに暮らしてたヤツがその頃の生活習慣をあっさり捨てて今は幸せにヤッピーやってます♪みたいな話にしか見えないんだよ!!ロックスターなんかにならなくていい、小さな幸せで家庭を作って満足しましょう、ってものすごい保守的。しかも女のほうはロックスターと寝て裏切られてストリッパーに「転落」人生って、「遊んだ女は不幸になりますよー」ってどんだけ保守的なの(ストリッパーになるのが転落人生だとは思わないのだが、描き方があまりに陳腐ってことを言いたい)。その上、2012年は一文無しになった若者がやり直せるチャンスをもらえるような甘い時代ではない。貧しい若者や失業した大人がストリートにあふれてオキュパイをしている今からすると、この話は景気の良かった80年代を逃げ切ったミドルクラスのノスタルジックな戯言にしか見えない。見ている最中本気でムカついてきた。同じハリウッドを舞台にした話なら、同じ単純なクリシェでもオーソドックスな芸道ものサクセスストーリ−をきちんとやって束の間の夢を見せてくれる『バーレスク』とかのほうが全然マシ。

 しかも使っている音楽がポイズンとかトゥイステッド・シスターとかジョーン・ジェットみたいに若干グラム・メタル寄りなわりには全体的にすごい雰囲気がヘテロセクシュアルで(最後郊外で家庭をとかほんっとヘテロセクシュアルじゃないですか!!)、同性愛の描き方がパッとしないところもなんかあまり気に入らない。敵役のドイツ人の片方がいかにもオネエな雰囲気でみんなにゲイと思われてるけど実はヘテロで反開発運動をやっているヒッピーっぽい都市計画の専門家の女性に惚れちゃって…というのはまあいいとして(「ゲイじゃない!ドイツ人なだけなんだ!」というギャグはいいのかどうかわからんけど)、あの唐突なロニーとデニスのゲイシークエンスは何なんですかねぇ…ギャグとしては確かにおかしいんだけど、ええーっていう感じ。あれをゲイのメタルファン層が見たらどう思うのかなぁ…

 あと音楽の使い方にもかなり疑問がある。まあ私はロックの中ではたぶんこのあたりのクラシック・ロックが一番手薄なので思い入れがそんなにないのがあまり乗れなかった原因のひとつなのかもしれないが、それでもイマイチだなぁと思うところが結構あった。実は行く前に西寺郷太さんのカバー曲論をきいて予習してから行ったのだが、この西寺カバー論でいうキャラが強烈すぎてカバーしにくいアーティストの曲に真っ正面から突っ込んでいっているようなところが結構あった気がする。トゥイステッド・シスターとかってキャラが強烈すぎてカバーしにくいと思うんだけど、あまりひねらず普通にやってたなぁ…ただ最後を"Don't Stop Believin'"でしめるのはズルいよな。あれはたぶんクラシック・ロックの中でも最もカバーしやすいキラーチューンのひとつでは?

 それでまあ鼻持ちならない話だったのだが、なんで鼻持ちならなくなるんだろう、って考えたところ、やはりクラシック・ロックというのが所謂産業ロックがほとんどで、意識的に政治諷刺や転覆的な思想を織り込むよりはとことん美しかったり快楽的だったりするのを目指しているからなんだろうなぁという気がする。別にひたすら美しくて快楽的で商業的だからといって転覆的でないっていうことではなく、例えばクイーンがいくら快楽的なハードロックだからってクイーンの曲を使ったミュージカルとかが「家庭で小さな幸せを…」ってな話には絶対ならないと思うのだが、アメリカを中心にクラシック・ロックばかり集めるとたぶんそういう保守的な話を作るのもある程度可能で(手法によっては転覆的な話になる気もするのだが)、たぶんこのホンを書いた人たちはそれが趣味だったんだろうと思う。


 あと、このミュージカルは最初っからダイレクトアドレスが多用されまくっており、狂言回しのロニーはほとんど客に向かってばかり話していて途中で「オレは作者の装置だし」みたいなネタばらしをしたりいしていて作劇法的には工夫があるのだが、なんか話がコレだとあまり気が利いた工夫には見えず、単なるポストモダンシニシズムに見える。つくづく鼻持ちならない芝居だな… 


 しかしながらこれは映画になるそうで、映画にする時に工夫すればそこまで鼻持ちならないところはなくなるかも…という気がしないでもないし(スプリットスクリーンとか映画的技法を多用する演出法をそのまま舞台でやってるせいでちょっとわざとらしくなっているところが多い気もしたので)、トム・クルーズが演じるロックスターはかなり期待できそうな気もするので一応見には行くかも。もっとマシな話になっているといいのだが…この調子で映画もやられたらただの拷問だよな。
 ↓トレーラー。歌はメアリ・J・ブライジとか起用してるので安心かも。