『マクベス』のバックステージもの~『ショウ・マスト・ゴー・オン』

 世田谷パブリックシアターで『ショウ・マスト・ゴー・オン』を見た。三谷幸喜の有名な喜劇で、演出も三谷が担当している。初めて見たのだが、どうも前の上演の時に比べるとわりと変更箇所があるそうだ。

 大学教員の栗林淳一(今井朋彦)が書いた『萬マクベス』なる『マクベス』の翻案劇のバックステージものである。ところが演出家のダニエル(英語圏から来ていて土地に不慣れらしい)は道に迷って来られなくなり、座長の宇沢(尾上松也)は体調不良で飲酒問題を抱え、さらには小道具が壊れたり、たまたま舞台裏に来た栗林の台本が勝手に変更されまくっているのが判明したり、スタッフのお父さんである万城目(小林隆)と謎のゲスト中島(藤本隆宏)が急に来たり、上演はトラブル続きだ。舞台監督の進藤(鈴木京香)は助手の木戸(ウエンツ瑛士)や演出部ののえ(秋元才加)の助けを借りてなんとか舞台を続けようとするが…

 喜劇というよりは所謂ファース(笑劇)で、かなりデフォルメされた人がたくさん出てきて右往左往するものの、最後はみんなで一丸となって芝居を続け、温かみのある感じで終わる作品である。舞台監督の進藤は正直、かなりヤバい人で(途中で木戸にパワハラを指摘されているくらいで、前が見えなくなってとんでもないことをやりがちだ)、正直万城目の息子さんが心配になるレベルだが、それでも最後はなんとかちゃんとオチがつく。笑いのツボを押さえた演出で楽しく見られる。

 なお、出てくる英文学者の栗林は、かなりデフォルメされている研究者キャラではあるが、私が見たところ絶対にシェイクスピア研究者ではないし、おそらく演劇も研究してない。たぶんもっと新しい小説か詩の研究者で、理系大学の教養科目担当で指導学生がいなくて暇だから戯曲を書いたのだと思う。専門科目を持っていて指導学生がいる教員なら「大学で英文学史を教えている」というような自己紹介をしないと思うので、たぶん専門科目を持っていない教員だ(英文学史を教えるために専門外のシェイクスピアとかをちゃんと読まないといけなくなって、それで翻案を作ってみたんだろう)。あと、演劇の研究者ならあんなト書きは書かないし(シェイクスピア研究者ならむしろト書きじたいを書かないと思う)、絶対初日に来るし、稽古場にも来るし、台本が変えられるのにも警戒するはずである。