とてもよくできた新作オペラ~『めぐりあう時間たち』

 METライブビューイングで『めぐりあう時間たち』を見てきた(リンク先の公式サイトはあらすじがちょっと間違っているような気がするが…)。ケヴィン・プッツ作曲の新作オペラで、マイケル・カニンガム小説映画化作品を原作としている。フェリム・マクダーモット演出、ヤニック・ネゼ=セガン指揮で、2022年12月10日に上演されたプロダクションの映像である。

 1920年代にメンタルヘルスの問題を抱えながら『ダロウェイ夫人』を執筆中のヴァージニア・ウルフジョイス・ディドナート)、1949年に夫の誕生日を祝う準備をしている主婦ローラ(ケリー・オハラ)、1999年にエイズに苦しむ詩人リチャード(カイル・ケテルセン)の文学賞受賞祝いパーティの準備をするクラリッサ(ルネ・フレミング)の3人の女性の1日を並行して描いた作品である。3人の人生が『ダロウェイ夫人』を軸にゆるやかにつながっていくことになる。途中で示唆されて最後にはっきりわかるが、ローラの息子がリチャードである。

 3人の大スターが共演で、それぞれ違う持ち味の歌でキャラクターの性格をあますところなく表現している。とくに私のお気に入りのディドナートは、温かみがあって複雑な歌でウルフの知性と悩みを表現しており、私が個人的にイメージするウルフ像にかなり近かった。時代ごとに違うスタイルを採用したセットも大変それぞれの話によくあっているし、ギリシャ悲劇のコロスみたいに機能する合唱や、内容にかなりちゃんとあわせて振り付けられているダンスも良い。そして、ここが映画や小説ではなかなかやりにくいところなのだが、舞台の醍醐味として、この3人の女性が同じ舞台に立って別々の声で自分のことを歌いつつ、なんとなくその感情がつながってしまう…という様子を自然に演出できるのが良い。映画だとスプリットスクリーンとか複雑な処理をしないといけないところだが、この作品はオペラなので、同じ平面に女性たちを立たせて、それぞれの声を保ちつつ、だんだん動きや歌で感情が交錯していく…というような演出が滑らかにできる。とくに最後で、3人の女性たちが真ん中に座って歌うところは、みんな大変なつらい人生を生きているのに、それでも時代を超えて女性同士の連帯が生まれてしまうというようなところを舞台的な力技で見せていて、けっこう暗くて深刻な話なのに後味がとても良かった。