かなりヘヴィな作品~METライブビューイング『デッドマン・ウォーキング』

 METライブビューイング『デッドマン・ウォーキング』を見た。ジェイク・ヘギー作曲、テレンス・マクナリー台本によるオペラで、2000年に初演された後、何度も再演されているものである。これは今年の10月の公演を収録したもので、イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出、ヤニック・ネゼ=セガン指揮による公演である。緩く実話に基づいており、ヒロインのシスター・ヘレン・プレジャンは実在の人物で、メイキング映像にも登場している。同名の大変有名な映画があるので、話じたいはとてもよく知られているものである。

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 ルイジアナ州の修道女であるシスター・ヘレン・プレジャン(ジョイス・ディドナート)は、若者2人を残虐に殺害した罪で死刑を宣告されているジョセフ(ライアン・マキニー)から魂に関する助けを求められ、文通の末、会いに行くことになる。ジョセフの助命嘆願は却下され、死刑が確定する。ヘレンはジョセフが自分の罪や死に向き合えるよう努力するが、なかなかジョセフは心を開いてくれない。

 セットはイヴォ・ヴァン・ホーヴェっぽいあまりリアリスティックではないもので、シンプルな箱っぽいセットに椅子とかテーブルが持ち込まれて、上にはお馴染みのスクリーンがあり、たまにそこにライヴで舞台上で撮影された映像が映る。最初の序曲のところで殺人の再現映像みたいなものが映されるのだが、これはやる意図はよくわかるのだが(途中のメイキングで演出家本人が説明もしている)、けっこうショッキングではある。ヘレンが移動する場面なども後ろに道路の映像を映しているし、処刑の場面も注射をアップで映すなど、映像はいかにもイヴォ・ヴァン・ホーヴェっぽく使われている。音楽は有名な賛美歌である"Swing Low, Sweet Chariot"によく似たいかにも南部の賛美歌っぽいメロディが最初に出てきて、神の恩寵とか赦しに関する話題が出るところではこの音楽が少しだけかかる。この音楽のせいか、映画よりもオペラのほうが少し南部ゴシックっぽいような気もする。

 ヘレンとジョセフのやりとりが主なのだが、何しろ死刑の是非とか、どんな罪を犯した人間でも人間であるのだから人間らしい敬意をもって扱うべきであるとか、罪を犯した人間はどうやってその罪と向き合えばいいのかとか、極めて深刻な主題を扱っているので、当然、内容もヘヴィである。第二幕でヘレンとジョセフが対峙し、ジョセフがとうとう自分のしたことをヘレンに告白して、ヘレンがジョセフに対して愛と赦しを与えるところは、主演2人の演技力と音楽の盛り上がりもあり、とても心を動かされた。その後にすぐ処刑の場面があるのだが、これは何か撮影を工夫しているのか、途中までは心臓がバクバク波打っているジョセフの様子を映しているのに、注射が終わるとジョセフが全然動かなくなっているように見えてけっこうリアルだしショッキングである(ライヴの上演だと、激しく動いた後に人が死ぬと心臓が波打っているのが客席から見えて「あ、死んでない」みたいに思えることもあるのだが、このプロダクションは全然そういう感じがしない)。

 キャスト陣はとても好演している。私のお気に入りのオペラ歌手であるディドナートが、強さと優しさを兼ね備えつつ、いろいろ悩みも抱えているヘレンをとても人情味豊かに歌い上げていて、これを見るだけでも価値がある。見るのに体力が必要だが、全体的に非常によくできた作品である。