ほんの少しだけ『リチャード三世』~『三月大歌舞伎第一部:花の御所始末』(ネタバレあり)

 『三月大歌舞伎第一部:花の御所始末』を見てきた。宇野信夫作で1974年に初演された作品で、今回は40年ぶりの再演だそうである。室町時代の歴史に取材しているが、『リチャード三世』がヒントらしい。

 足利義満河原崎権十郎)の次男である義教(松本幸四郎)は、兄である義嗣(阪東亀蔵)を追い落とし、妹の入江(中村雀右衛門)と畠山左馬之助(市川染五郎)を策略で恋愛関係にし、さらには父と兄を殺して将軍の座につく。邪魔になる者は全員、殺害して自分の地位を安泰にしようとする義教だが、その暴政に一揆が起こり、花の御所が襲撃される事態になる。かつて苦しめた安積行秀(片岡愛之助)に追われ、義教は結局自害することとなる。

 思ったよりも『リチャード三世』っぽさは少なく、兄を陥れて暗殺したり、亡霊に苛まれたりするところがおそらく参考にしているのだろうな…と思う程度で、ほぼ別物である。シェイクスピアのリチャードに比べると、義教はカッとなって自分で相手を殺害するところがけっこう多い。自分の手を汚さずにいい人のふりをしているリチャードに比べると義教はだいぶ単純で癇癪持ちな性格だ。義教が人を殺すたびにおつきの珍才(澤村宗之助)・重才(大谷廣太郎)がしゅしゅしゅっと出てきて遺体を片付けるところがブラックジョークになっている。

 こういう笑えるところもあるし、最後の義教が能装束で活躍するところなどは迫力があって面白かったのだが、何しろ70年代の作品でけっこう現代劇タッチでわかりやすいわりには、ちょっと台本が古くなっているところもあると思った。途中で義教が父の側女である北野の方(片岡千壽)を奪うところは、義満暗殺直後にまるで義教が無理強いにしたような描き方なのに、その後すぐ北野がデレデレと忠実な側室ぶりをアピールするところはずいぶん古い描き方だなと思った。また、最後に入江が突然現れて自害するところは、ここで死んでも何の意味もないのに、実に主体性のない女性だな…と思った。この入江の自殺は要らないのではないかと思う。