リヴァー・フェニックスの遺作のひとつ『アメリカン・レガシー』

 ユーロスペースで、リヴァー・フェニックスの遺作のひとつ『アメリカン・レガシー』を見た。全然期待していなかったのだが、前の『ダーク・ブラッド』とちょっと似た作風だけど、全然期待していなかったのだが思ったよりは面白かった。

 舞台は19世紀のニューメキシコ州。馬商人プレスコット(リチャード・ハリス)が旅回りの演芸一座を訪ねてくる。実はプレスコットは前の年にこの一座の座長の娘でカイオワ族の血を引くアウバニーを買い取って息子タルボット(リヴァー・フェニックス)の妻としていたのだが、アウバニーがお産で亡くなり、妻に執着していたタルボットが狂気に陥ったため、藁にもすがる思いでアウバニーの妹、ヴェラダを買おうとしているのであった。しかしながらプレスコットの上の息子で、父親よりも家族思いでマトモな性格のリーヴズ(ダーモット・マローニー)が猛反対したため、プレスコットはヴェラダを誘拐して拝み倒すという暴挙に出る。お金と自由を約束されたヴェラダはタルボットのもとに向かうが、タルボットは荒ぶるアウバニーの霊に悩まされており…というのがあらすじ。

 全体的に、座長マクリーがアイルランド人だったり(ミンストレルショーをはじめとして、19世紀頃の北米の演芸にはアイルランド系のパフォーマーが多かった)、派手なマウンティバンク(大道薬売りと訳されることがあるが、詐欺まがいのパフォーマンスをしながら薬を売り歩く、医療エンタテイメントの一種)が出てきたり、古いポピュラーソングを採譜して使ってたり、思ったより時代考証は手が込んでいる。何度も何度も貼ってる動画だが、マウンティバンクについてはこちらのビデオをどうぞ↓

 話がすすんでいくと、アウバニーとヴェラダの母であるカイオワ族のサイレント・タングは舌を切られた女性でマクリーにレイプされ、無理矢理妻にされたあげく逃亡したということがわかったり、全体的にひどい扱いを受けた少数民族の女性の怨念が復讐を…という話になっている。性暴力や白人の奢り、それに対するマイノリティ女性の激しい怨念を容赦なく描いているあたりは良いと思うのだが、けっこう脚本に一貫性がないところがあり、もっと面白くなりそうな話が散漫になっているのが残念。例えば、プレスコットは最初はヴェラダをタルボットの再婚相手にさせるつもりだったみたいだけど途中で「自由にする」と言ったりするし(拝み倒すために気を変えたんだろうが、ここでヴェラダがちゃんと確認しないのはおかしいのでは?)、ラスト近くで実はサイレント・タングが生きてたことがわかるのだがこのあたりの収拾もあんまりきちんとしてない。とくに最後がプレスコットとタルボットの父子が怨霊から解放されて帰る場面で終わっており、いったいヴェラダと兄のリーヴズがどうなったのかとかがよくわからないのは非常に良くない。ヴェラダはけっこう存在感ある役なのだが、この尻切れトンボな感じは「女性の意志の力」という全体のテーマに全然あってないと思った。プレスコットとタルボットの場面の前に、ヴェラダとリーヴズの場面を何か入れるべきだったのでは…

 プレスコット役のリチャード・ハリスの演技はとても良かったのだが、リヴァー・フェニックスは狂気の役のわりには見せ場が少なく、演技的には『ダーク・ブラッド』のほうが見所があったかも。