今のうちに『君の名前で僕を呼んで』を撮っておかないと…『Summer of 85』(ネタバレ)

 フランソワ・オゾンの新作『Summer of 85』を見た。なんでフランス映画を英語タイトルにするのか全くわからないが、とにかく1985年の夏を描いた作品である。原作があるが(未読)、イギリスの小説だということなので、舞台とかはかなり変わっていると思われる。

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 1985年、ノルマンディのビーチリゾートを舞台に、16歳のアレックス(フェリックス・ルフェーヴル)と18歳のダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)の短い恋を描いた物語である。アレックスのヨットが転覆したのをダヴィドが助けたのをきっかけに2人は急接近し、恋に落ちるが、プレイボーイのダヴィドはアレックスの知り合いであるイギリスから来たケイト(フィリッピーヌ・ヴェルジュ)にも色目を使う。アレックスとダヴィドは破局するが、ダヴィドはその直後にバイク事故で死亡してしまう。

 オゾンが若い時の短編「サマードレス」(1997)や『危険なプロット』(2012)を思わせる感じの作品である。どうもダヴィドが途中で死んでしまってアレックスがトラブルに巻き込まれていることが最初から示されており、ちょっとミステリアスに少しずつ情報を開示して話を引っ張る一方、アレックスの情熱的な初恋が切なくかつ痛々しく描かれる。ハンサムで優しいダヴィドが、実は誰にでも優しいだけのプレイボーイらしいということが少しずつわかっていくものの、それでも亡きダヴィドへの想いをあきらめられないアレックスの絶望的な恋心が繊細に描かれている。ダヴィドが死んでしまうという点では悲劇的なのだが、一方で海辺の街で若者が恋の駆け引きを…ということで、なんかビーチパーティものみたいな華やかな見た目で、そんなに後味の暗い映画ではない。また、主演の2人が若手にしてはとても上手で魅力があり、とくにアレックス役のフェリックス・ルフェーヴルはリヴァー・フェニックスみたいだとか言われているらしいが、かなり将来が期待できそうな感じである。バイクが出てくるあたり、グザヴィエ・ドランの『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』同様、『マイ・プライベート・アイダホ』を意識しているのかもしれない。

 しかしながら見ていて思ったのは、フランソワ・オゾンはどうしても自分自身の『君の名前で僕を呼んで』を撮っておきたかったんだろうな、ということである。オゾンは最近、社会問題と信仰を扱った『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』とか、歴史ものの『婚約者の友人』とか、個人的というよりはいろいろな人の人生をうまく語る、みたいな真面目な作品を撮っていたのだが、これは80年代半ばということで、まさにオゾンが十代だった頃を描いた作品である。『君の名前で僕を呼んで』も80年代初頭くらいが舞台で、エイズがゲイカルチャーに大きな影響を及ぼす前の楽しい時代へのノスタルジアがこもった一夏の恋物語だった。『Summer of 85』はまさにそういうアプローチの作品で、非常によくできているし、撮らないといけない作品だったのだとは思うが、ちょっと二番煎じの感はある。