現代版読み替えにしてはちょっと半端なような…『ウェンディ&ピーターパン』(ネタバレ)

 『ウェンディ&ピーターパン』を見てきた。エラ・ヒクソンによる『ピーター・パン』の翻案である。もともとはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでジョナサン・マンビィが演出したもので、日本版もマンビィが演出している。

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 お話はだいたい『ピーター・パン』に沿ったものだが、ダーリング家の末子トム(下川恭平)が病死してしまうのが話のきっかけになっている。このトムをどうしても取り戻したいウェンディ(黒木華)がヒロインになっており、原作よりもずいぶん役割が大きい。さらにウェンディ、タイガー・リリー(山崎紘菜)、ティカーベル(富田望生)の女性3人が連帯して戦う様子にも焦点があてられている。

 セットが大変綺麗で凝ったもので、ロンドンの子供部屋は4つのベッドがいろんな小物に囲まれて置いてあって、きょうだいの1人が欠けてしまうといかに子供部屋が殺風景になるかということを示すものになっている。一方でネヴァーランドは大きな木が生えていたり、霧と波に囲まれた海賊船が出てきたり(きちんと動く船でかなり大がかりだ)、ロンドンに比べるとかなり神秘的だ。トムの経緯や、本作ではダーリングさんとフック船長を同じ役者(堤真一)が演じていて1人の人間の裏表みたいに演出されていることもあり、全体的にネヴァーランドは死後の世界みたいに見えるところもあり、かなり異界らしい。

 ただ、全体的にはフェミニスト的読み替え、というわりにはけっこうやり方が半端だなぁと思った。みんなにお母さん扱いされるウェンディがイライラしてそれを拒否し、トムを探そうとするあたりは原作のステレオタイプな少女の描き方に抗っているのだが、一方でタイガー・リリーは侵略された先住民の最後の生き残りだとかいうキャラクター設定があるわりにあっさりお亡くなりになってしまって、せっかく山崎紘菜がなかなかカッコよく演じているのにずいぶん尻切れトンボで掘り下げられていない。ダーリング夫人を演じる石田ひかりも結構良いのに、出て行くの出て行かないのとかいう話が気をもたせるだけで肩透かしみたいな感じで終わってしまう。フェミニスト的読み替えというにはちょっとフックとお父さんに描写が寄っている気もするし、もっとウェンディを中心に大胆に変更したほうが良かったような気がする。